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フェイク

〜最終章〜

1.プロローグ

「ねえ…里理ちゃん、これって聞いてた?」
「聞いてない、わ...」

テレビでは、先ほどギャラクシーの緋川拓海が記者会見を行った。
J&Mからの移籍、新たなプロダクションと契約したことを伝えていた。確かに契約更新時期だとかなんだとかは前に聞いていた気もするが、ギャラクシーはJ&Mにいるものだと端からそう思いこんでいたのが事実。しかしその会見で緋川の口から出たのは、ギャラクシーからの脱退、事実上解散という意味のものだった。
その後時間差で行われた記者会見には、内縁とはいえ夫も同然の天野雅弘がいつもとは全く違う、真剣そのものの顔で重い口を開いていた。ドラマ張りのキツい視線、司会をしている時からは想像も付かないほど言葉少ないものだった。

「はい、そうです。俺たちは全員J&Mとの再契約をしませんでした。」
「ではギャラクシーは解散だとうい緋川さんの言葉に間違いないんですね?」
「そうです。」
記者達の質問の声にゆっくりした声で返事を繰り返す。
「では天野さんも緋川さんと同じプロダクションに移られるんですか?」
「いえ、俺は同じプロダクションには移りません。独立したいと思っています。」
「ご自分で事務所を、ということですか?」
「まだはっきりとは決めていませんが、そう言うことだと思って戴いて結構です。」

聞いてないんですけど??
思わず叫び出したかったが、側には雅鷹も、義母と言っても一つ年上の真美子さんもいるしで取り乱すわけにはいかなかった。
自分は未だに正式には認められた妻でもないし、雅鷹の認知だって先延ばしになっていた。それも全部<J&M>というアイドルの牙城のTOPに存在するギャラクシーに属する、このテレビ画面の中の男には無理なことだからと、ひたすら耐えてきたのだ。
いつか、認めて貰える。そんな日が来ることだけを夢見ていた…
もしかして、その口から自分のことが語られるかも?と構えたが、会見はその後彼が司会業中心にやっていくこと、ドラマも受けることなど語って終了した。あれだけ好きだった踊りも、苦手だけど嫌いではなかった歌ももうやらないだろうと少し寂しげに口にするだけだった。
わたしや雅鷹のことは?まだずっと先なんだね…もしかしたら、邪魔なだけ??
息を詰めて画面に見入っていた姿勢を解いて、大きくため息をついてソファにもたれ直した。
「大丈夫?里理ちゃん…」
「うん、いきなりで吃驚しただけ」
「そう、言うかなと思ったんだけどね...まーくんのこととか。」
「まだ、無理だよ。」
独立したところで、この先どうなるかわからない世界だ。
でも、一瞬期待していた自分がいた。

アイドルをやってるあの人が好きだった。
だけど、辞めたと思うと嬉しかったのだ。
身勝手だけど、ようやく自分たちの元へ帰ってきてくれるんじゃないか、なんて期待した自分が腹ただしかった。
これからが大変なんだもの。わたしも頑張って支えなきゃ…今以上に我が儘なんて言ってられない。
「マー」
最近言葉らしき物を発するようになった小さな存在が縋り付いて抱っこを求めてくる。
「どうしたの、まーくん?」
「里理ちゃん…泣きそうな顔をしてるの、気が付いてる?」
「え?」
義母にそういわれて子供の顔を覗き込むと、少し不安そうにこっちを見ていた。
「ごめんね…雅鷹を不安にさせちゃいけないわよね?」
ぎゅうっと抱きしめる確かな温もり、赤ちゃん独特のミルク臭い匂いが鼻孔に広がって、少しだけ不安な気持ちが落ち着いた。
まずはこの子を守ること、それが一番大切な事。
特番のアナウンサーががなり立てて、続いて他のメンバーの記者会見が行われることを発表していた。時間を見計らって何度か携帯に電話をかけてみたけれども電源が入っていないようだった。メールもしたけれども、返事も帰ってこなかったし、それから1週間、彼が姿を見せることもなかった。

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