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フェイク

〜最終章〜

2.騒ぎの渦中

<わりぃ、こっちから連絡するまで待ってろ>
翌々日、ようやくメールが1通だけ届いたけれども声すら聞けなかった。
元々無精な人で、電話やメールするくらいなら会いに来てくれたから、これまでは全然寂しくなんか無かった。どうしてもの時は、そっと部屋に行けば良かったし…
だけど、今あそこに行くのは危険だとわかっていた。だから行ってもいいのかどうか、あのひとから許可も取れないまま、ひたすら連絡があるのを待っているしかなかった。

そのメールからまた一週間。
彼が何をどうしてるかまったくわからない。きっとTVの方が詳しいはずだ...
J&Mも、社長さんが辞任して、替わりに有名なゲームメーカーの会社の社長さんがその後に座ったらしい。
所属タレントも三々五々それぞれの進路に散っていったようだった。
J&Mの規制が無くなり、溢れ出たゴシップを元にJ&Mのタレント達を攻撃しはじめた。
手始めが<ストーム>、ギャラクシーの解散会見と重なったコンサートは散々なもので、その後のワイドショーなんかで、どのメンバーもこぞって叩かれている姿は見ていられなかった。
私の元に誰も来ないと言うことはあのひとが守ってくれてると言うことだろうか?だからこそ今は動けないし、黙ってまっているしかないと思った。

<事務所に来い。住所はこれ>

やっと来たメールに書かれた住所は案外この近く、実家からも目と鼻の先…
電車でなくても徒歩でも通えそうな所だった。
メールに返信しようとした矢先に携帯が鳴った。それもしらないナンバーからだった。

『サト?』
「ま、雅弘さん!?」
思わず叫んだので側にいた雅鷹がびくっと跳ねて吃驚目でこちらを見ていた。図太いのか、このぐらいでは泣きはしない。
『ようやく一人になれたんだ...携帯も別にこっそり作った。これ、プリペイドだけどな。』
「ね、どうしてるの?ちゃんと食べてる?」
『まあな、メール見ただろ?』
「う、うん...」
『事務所作って独立したんだ。一応社長はお袋の名前を使わせてもらったんだけど、実際ここに出てこれるわけでもないし、人手が足りないんだ。J&Mから引き抜いてきたマネージャーは現場に出張ってるし、待機組みは事務仕事や電話応対ができないんだ。それでおまえの名前が出たから...』
なに?よくわからないんだけど??
『夏人の奴が、おまえがフリーで仕事してて信用出来るから来てもらえばいいって言い出すもんだからさ。』
夏人っていうのは通称なっくん、長い間彼の付き人をしていたけれども、数年前に昇格して現場マネージャーになってたはず。そっか、一緒に事務所に来てくれてたんだ。心強いよね?あの子は素直だしこのひとのことよくわかってるし...
『おまえなら、スタイリストも外注しなくてすむし、他の仕事も出来るだろ?おまえ』
確かに、白井先生の所は、ヤツとよりが戻ってからは円満退職させてもらった。無理に働かなくていいようにヤツからは生活費出してもらってるし、臨時の仕事には出かけてる。その為に一旦フリーになって、白井先生の要望に応えてるってわけだ。そうしておかないと、あたしや雅鷹の存在がバレちゃいけないから…
「わかったけど、いいの?」
あたしが行っていいのだろうか?もしバレたら??
『信用の出来る身内を一人置いておきたいんだ。まだ公言は出来ないけどな。個人事務所はちょっとしたことで駄目になるからな。頼んでいいか?』
珍しく下手に出てる?滅多にないな、このひとがわたしに頼んでくるなんて...でも、ほんとに身内として行っていいの??
『わりぃ、切るぞ?』
誰かが彼の名を呼んだ声が聞こえて、ガチャリと電話は切れた。

行けば、逢えるんだろうか?それなら、行くしかないわよね?
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