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フェイク

〜最終章〜

8.想いの錯覚

わかってる。バレたりしたら大変なことも、取り返しがつかなくなることも…
タレントにとってイメージが一番で、司会業なんて特に悪いイメージは御法度。それにアイドルって、誰のモノであってもいけないことも、ファンの気持ちになってみれば判ることだから。

「オレ、酷いこと言ってるって思うよ。でも、今脱アイドルしたところで、いい形の交際報道や結婚報道だったら数年先にはOKかもしんないけど、もう子供もいて、籍も入れてない認知もして無いじゃイメージ悪すぎるよ!それにあの人ってさ、元々来る者拒まずで選り取り見取りなのに…なんでサトちゃんなのかって、誰も納得しないよ。どんだけ美人でも売れてる女子アナでも、仕事の邪魔になるような相手は事務所も排除してきただろ、なんでサトちゃんだけ…気付かなかったんだ?けど、こんなの御園さんに知れたら大変なことになる。」
「わかってる…」
御園さんがあのひとのことをどんな目で見てるか、ってことも。
「判ってないよ!判ってたら、なんで事務所に来たのさ?オレはてっきり別れてるから、もうなんのしがらみもないって割り切ってきてるんだと思ってたんだよ?でなきゃ、あの人が御園さんを裏切るような真似出来るわけ無いだろ?あの人の仕事を軌道に乗せるために、J&Mとの契約が切れる前から動いて、事務所設立の目処付けたのは、全部御園さんだよ。」
それもわかってる。だからあのひとが全面の信頼を向けてるし、我が儘言ったり無茶言ったりせず素直に従ってるんだから。
でも、わたしはあのひとに呼ばれた。側にいて欲しいと…だから自分の出来る限りのことをしてあげたい。必要だからわたしはいるのだ、ここに。そう信じたい、今は…
「御園さんが居ないとこの事務所は回らない。あの人だってそれを知ってるはずだ。その上で呼んだって事はサトちゃんが必要だってあの人が判断したのも判る。でもね、御園さんはサトちゃんとあの人のこと疑ってるみたいだし、バレたらただでは済まないのも判ってるんなら、浅はかなことしないで欲しいんだ。」
「う、ん…」
「オレが気が付くぐらいだからね。何度か夜逢ってるのも、オレ知ってる…御園さんからの連絡も誤魔化したこともあるんだ。だから、諦めてよ!その代わりオレの出来ること全部する。すぐに入籍しても良い。子供のことだってオレちゃんと愛せると思うよ。だってあの人の子供なんだろ?滅茶苦茶可愛がるし、サトちゃんの事も大事にする。仮にもあの人が一時でも愛した人だし、今日泣いてるのみてオレが幸せにしてあげたいって思えたから…それに、どうしても、あの人がサトちゃんのこと離せないって言うんなら、関係続けてもいい…オレが全部カムフラージュするから。」
「え?」
どういうこと??それって…
「オレの所に遊びに来たときに逢えばいいし、関係を続けたければ続ければいい。あの人だってずっと女無しじゃまた荒れるだろうし、他で遊ばれても今は困るだろ?事務所に力がないってことは、本当に怖いことなんだから…でも、オレと籍入れてしまえばどれだけマスコミに突っつかれても大丈夫だろ?だから、二人であの人のこと守ろうよ!あの人にはもっともっとビックになって欲しいんだ。一杯仕事してもらって、あの人に相応しい相手を隣に迎えた方がずっといいと思わない?」
わたしは、相応しくない…ってこと?
だよね。たかがスタイリスト、性欲処理の相手だって自分でも思いこんでたぐらいなんだから、そう見えてもしょうがないんだ。
「すこし、考えさせて…」
素直にうんと言えば良いのかも知れない。どんな形でも、雅鷹には父親の存在が出来るわけだし。でもさすがに関係を続けるって言うのは…無理だと思う。それこそ、性欲処理係じゃない?いくらこっちに愛があっても、誰かの妻になったわたしをあの人が欲しがるだろうか?
あり得ない。だけど、すげなく断って事務所のみんなに迷惑かけるようなことになったら…
あのひとの仕事、滅茶苦茶になっちゃう。あのひとの未来を信じて付いてきてくれた人たちばかりなのに。
「とにかく、もう二人で逢ったりしないでよね。その時はオレが立ち会うし、このまま事務所にいる気なら、オレとつきあってる振りだけでもしてよ。無理なら、ここを辞めて姿隠してよ。」
「…うん、わかった」
その覚悟は出来てる。って言うか、一度してるからあのひとがわたしを捜し出したりしなければ、きっとうまくいくはずだもの。最初に戻ればいいのに…戻れなくなってる自分がいる。
その後は無言で家の前まで歩いた。
「一番イイのはオレにしてくれればなんだけど。」
家の前でそう言って照れくさそうに笑うなっくん。
どこに彼の真意があるのかは計り知れないけれども、あのひとを守りたい気持ちは同じはずだ。
「ほんと、サトちゃんなら、いいんだ…っていうか、その前からちょい気があったのは確かだし、料理上手いとこもいいなって思ったし、泣いてるのを慰めてあげたいとも思った。昔は全然好みのタイプじゃなかったんだけど、っていうのはサトちゃんに悪いけどどっちかっていうと地味なタイプだっただろ?若い頃はちょい派手でも可愛い甘えてくるタイプが良いと思ってたんだ。けど、そんなタイプ続くはずがないんだよな。オレが欲しいのはこう安らげる相手とあったかい家庭でさ、頼りないオレでもしっかり支えてくれるサトちゃんみたいなのがタイプだったって気が付いたし…って、それもあの人が先に気が付いてたのかもな。」
答えることが出来なくて、黙って下を向いていた。
「じゃあ、良い返事待ってるから」
すっと、こめかみの辺りに何かが触れた感触がして、急いで顔を上げるとなっくんが手を振りながら走り去るのが街灯の明かりに浮かんでその後闇に消えた。

本気?じゃないよね、あれは…
わたしは大きなため息をついて門の方へ向かって歩き出そうとした。
「きゃっ!」
一瞬、黒い影が目の前を掠めたのに驚いて、後ろに飛び退いた瞬間腕を掴まれた。
「なっ!?」
「なにやってんだ…」
低い声が聞こえたときには門の影に引きずり込まれていた。って言っても自分の家だけれども。
「ま、雅弘さん…?」
暗いのにサングラスして、目深に帽子被って、怪しいことこの上ない天野雅弘その人だった。
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