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フェイク

〜最終章〜

13.目撃

言われた通り事務所に来てるわたしって何なんだろう。取りあえず晩ご飯の差し入れが名目なので、なっくんと二人分の夕食を持ち込んでるけど。
それらをすっかり完食した男二人に食後のお茶を出している。基本事務所内は禁酒だから。
事務所のソファにふんぞり返ってるあの人が湯呑みをテーブルに置き立ち上がった。
「夏人、ちょっと気を効かして出掛けてこいよ。」
湯飲みを片づけようとするわたしの手を引くとそのまま奥の部屋に連れて行こうとしている。
「天野さん……知らないっすよ、バレても」
「うるせえ、困るんだったら見張ってればいいだろ?」
見張れって……ちょっとまってよ!
「天野さん、いくらなんでもソレはヤバイですよ……他にも鍵もってる人居るんですから」
それって暗に御園さんのこと指してるんだよね?その可能性がある限り、本当に落ちつかないんだから。
そう言いながらも何度か来てるし、やっちゃってるんだけど。あれは、その勢いに流されてと言うか、わたしもその我慢出来なかったというか……
「だから、そんなのおまえが上手く誤魔化せばいいだけだろ?」
「そりゃそうですけど……」
ちらっとわたしの方を哀れんだ視線で見つめてくるなっくん。
もちろんわたしだってイヤだよ?誰かが側に居て、何してるのかわかってるのに無神経にそんなこと出来ないわよ!
「ねえ、わたしやっぱり帰る。」
「じゃあ、オレ送っていきます!」
なっくんがほっとした顔で立ち上がった瞬間、あの人の形相が変わった。
「何でおめえが送ってくんだよ……」
「え?そんな、だって天野さんじゃ顔が売れてるから……それにこんな遅くに女の人を一人で帰せないですよ。」
「まさかおめえ、サトに手出すつもりとかねえよな?前に送っていった時何したかオレが知らないとでも思ってんのか?」
「ひっ、そ、それは……あんときは必死だったんですから!なんとか二人のことがマスコミにバレないようにって、だったらオレが隠れ蓑って言うか誤魔化しになればって……」
「あん?それは本気じゃなかったんだろ?けどな、いくらオレの為とは言っても、籍入れてもいいって事はそれなりにサトのことも気に入ってるって事じゃないのか?」
「ち、違いますよ!!わ、わかりました、見張ってますから……1時間位でお願いします。」
「無理だな、最低でも2時間は無いと何度も可愛がってやれねえだろ?」
「ちょっと、なに言ってるの!」
「うわ……ソコまで言いますか?」
あきれ顔のなっくんと、わたしの腰を引き寄せて目を据わらせてるあのひと。
「じゃあな、頼んだぞ」
そういって部屋の中にわたしを押し込んだ。


「待って、うぅ……ん」
すぐに言葉は飲み込まれる。深いキスでそのままベッドへ行くのかと思ったらドアに背中を押しつけられた。
「おめえ、まさか気持ちが揺れたとか言わねえだろうな?」
「え?」
「夏人の野郎だよ!今日聞かされてオレが平気だったとでも言うのか?」
あ……なんか、泣きそうな、顔?
「平気じゃないからな!おまえが他の男のもんになるとか、そういうの……例え名前だけでもだ!わかってんのか、サト」
───嬉しい。そう言ってくれることが。滅多なことでは気持ちを表す言葉なんて言ってくれないから、だから……
「待ってろ、もう少し軌道に乗ったら……いざとなればオレが被りゃいいんだからな。おまえはオレんだ」
そう言って押しつけられたままキスが続く。慣らされた身体はそれだけで溶けそうになってるし、触れられた胸も腰も、敏感に感じて反応しまくっていた。
「サト、やっぱ昼間のが中途半端すぎたか?もう濡れてんぞ?」
下着の中にあのひとの指先が入り込んだ時には、そんな状態だった。たしかに、昼間途中だったっていうのは身体的にも中途半端で辛かったのは事実だし。
「このままヤルぞ」
「え?」
別に控え室でもなんでもないのに、すぐそこにベッドがあるのに??
いきなり下着を引き抜かれ、片足を持ち上げられてしまった。
「やっ、なに?」
「夏人に聞かせてやろうぜ?オレたちがどんなことしてるか……アイツの入る隙間なんてねえってな!」
な、なに勘違いしてるの?なっくんは『天野雅弘』の芸能生命を守るためにわたしとのことを言い出しただけでしょ?今だってカレシの振りしてるのは御園さんの疑いの目をそらせるためで、別にそんなんつもりなんかじゃないはずだよ?
「サト、いくら仕事のためでも、男が見返り無しに入籍とか結婚とか言ってくると思ってたのか?その先にはおめえとこういうコトしたいからに決まってんだろ?」
「ひっ……んぐっ」
いきなり……貫かれた。いくら濡れかけてたといっても満足に愛撫もされず、いきなりの挿入はじんじんと痛みを伴った。
「あっ……んっ!」
「きつぅ……いつもの倍キツいわ」
へへと笑う顔が目の前。このひとはあまり背が高くないから、こうやって下からわたしを抱え上げた恰好だと目の前と言うより少し下の方向に顔が見える。
「やっ……抜いてぇ」
「なんで?すぐに気持ちよくなる癖に……んっ!」
ぐいぐいと突き上げられ、身体が揺れる。その度に背中を支えるドアに当たってガタガタと揺れる。その音が気になってしょうがない。
「ヤダ、ヤダ……こんなの……」
「サト?」
「信じられない?わたしのこと……そりゃ一瞬考えたわよ、入籍とか結婚とか……。でもそれはあなただから、したいだけで他の人じゃ駄目なくらいわかってるじゃないの!でも、御園さんが疑ってるみたいだったし、あの人……雅弘さんのこと……」
「ああ、知ってる」
え?うそ……じゃあ、キスしてたのとか、なんか彼女っぽい発言とかソレも全部?
「まさか本気にしてねえだろうな?オレが惚れてるのも、こうしてえのもおめえだけだって!」
腰を掴まれて最奥までずんと突き上げられた瞬間目の前が真っ白になった。
「あっ……」
いきなりの快感と衝撃に立っていられなくなり、そのまま身体を預けた。
「いい顔、たまんね」
今度はゆっくりと身体を引いていく。その時中側を擦られてびくりと身体が震える。
「イイトコ全部わかってんだからな。可愛い声を夏人に聞かせてやんな」
「ひっ……ん、あぁ……ああん、やっ、だめ、だめぇ」
途中で何度も引き戻って擦られて、快感がプールされて大きな水たまりを作っていく。もう少し、奥まで突いて貰えればすぐに快感がはじけ飛ぶだろう。欲しくて、欲しくて身体が………腰が動き出してしまう。
「ん?どした、イイのか?だろうな、我慢出来ないって顔してんぜ」
ゆっくりとまた戻っていく腰を追う。
「ま、さひろさん……もう、」
早すぎる頂点を求めて腰が蠢く。
「イイぜ、イカせてやるから、いい声だして鳴けよな?」
首筋を尖った舌先で舐めあげながら、腰の動きを早めるカレに合わせて、外に誰がいるかなんて忘れたように自らの腰を振り求めた。
「サトっ!」

───バタン

事務所の方からドアが開く音がして、『御園さん』となっくんが呼ぶ声がドア越しに聞こえた。
その瞬間二人の動きが止まる。
勿論昇りかけた快感も止まるけど収まるような感じじゃない。中で存在を主張するソレは生き物のように脈打って熱いし、わたし自身もヒクヒクと収縮を続けているのだから。
『天野くんは?』
『も、もう、寝ました!!』
『そう。食事はどうしたの?』
『あの、えっと』
『……水城さん、来たの?』
おそらく流しに洗ったタッパを見たのだろう。
『え、はい。天野さんが和食が食べたいって言ってたし、オレが電話したらサトちゃんすぐに持って来てくれて……差し入れしてくれるつもりだったみたいっす。オレに』
なっくんは、オレにの部分を強調して言った。たぶんカレなりの気遣いだろう。
『そう、彼女だものね、水城さん』
『は、はい』
むっと顔していきなり突き上げないでよ!やばいんだから……
『ねえ、本気で結婚するつもりなの?子持ちでしょ?』
『いいんです!サトちゃんすっげえいい子だから……料理も上手し、可愛いし、オレ本気で惚れてますから』
うわぁ、そこまで嘘つかなくてもいいのに?なんか中で一層この人のモノが大きくなったような??
『そう、じゃあわたし帰るけど、天野くんにこの書類見せておいて。Fテレの公募シナリオ年末ドラマの主役、彼に決まりそうだから』
『そうなんですか?やった!!!』
しばらくしてバタンと事務所のドアが閉まると同時に激しい突き上げが始まる。容赦のない最奥を狙うその動き……
ちょっと待って、避妊してないよね??
「サト、サト……」
「やっ、だめっ!!」
「もう、とまんねぇ!このまま出させろ」
「やっ、それは……それだけは」
「サト、ごめん……」
最後小さな声が耳もとで聞こえたあと、熱い迸りが身体の奥で弾けて、わたしもそのまま搾り取るようにそこをヒクつかせて達してしまった。

「はぁっ、んっ……もう、やっ」
ベッドの上で何度も体位を変えられながら攻め立てられた。何度もイかされたしこの人もなんどもわたしの中で放っていた。
もう、どうでもいいくらいぐだぐだで、快感で震える身体は止まらない。
「サト、また出る……」
「ああぁ!!」
ドクドクと脈打つままの彼を受け止めたままわたしは気を失うように眠りに落ちていた。

目が覚めたわたしの身体をこの人がきれいにしてくれて、ぼーっとしたまま車に乗ったけれども、支えてくれたのも全部彼だ。なっくんには指一本触れさせようとしない。
わたしを家まで送る車もなっくんが運転して、あのひとは一緒に後部座席に座っていた。その手はわたしの手を握って知らん顔して外の景色を見ている。なっくんには見えてるのだろうけど、何も言わない。車はわたしの実家に向かっていた。
「謝らねえからな。出来ててもそれはオレの子だから」
どうやらこのひとはなっくんに嫉妬していたらしい。自分が出来ないことをやろうとした彼に、そして今堂々とわたしのことを『彼女です』と言い張る事が出来る彼を羨ましく思っていたのだという。
なっくんは本気じゃないのに、馬鹿みたいと思いながらも嬉しかったりする。
だからといって避妊しないのはひどいよ。もうあんな淋しい思いで子供を産みたくない。ちゃんと両親揃って、歓迎されて産み出してあげたいから。
「サト、もうしばらくしたら、オレはマンションに戻る。おまえも用意して来いよ、雅鷹連れて」
「え?でも……」
「もう、いいんだ」
にっこり笑うこの人の顔は不敵だ。勝算がある時に見せるしたたかな笑顔。
「じゃあな、家の前まで送っていけないけど」
そう言って引き寄せられてシートに隠れてのキス。
なんか、らしくないことするなぁ……
首を捻りながら車から降りて、家へと向かう。途中ちょっと気になって車の方を振り返るとにっこり笑って手を振ってるあのひと。角を曲がってからも気になっていた。
さっきの雅鷹連れてマンションに来いとか、腑に落ちないことばかり。急にどうしたんだろう?今まで慎重すぎるほどだったのに……特に独立してからは。



「あなただったの……」
実家の門を開けようと鉄柵のノブに手をかけた時、背後から暗く沈んだ声が聞こえた。
「み、そのさん?」
暗闇から街灯の下に顔を見せたその人は、こんな場所に居るはずのない人だった。普段の怜悧な表情を強張らせ、見開いた目がいつもと違う印象をわたしに与えていた。
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