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フェイク

「あのさ、取りあえず帰るけど...」

あたしの部屋。
狭い部屋に雅鷹のベビーベッドとあたしの折りたたみのベッドは今はたたまれてて、地べたにクッションの上に座って、机に肩肘ついて、ちょっぴり不機嫌そうな顔でじっとあたしを見てる天野さん。
「うん。でも...あたしは、ずっとここにいてもいいよ?たまにしかご飯作ってあげられなくなるけど、今日みたいに言ってくれただけで嬉しかったから...あたし、ここでちゃんと雅鷹育てて見せるし、仕事もちゃんとするから、今まで通りでいいよ?そりゃ...雅鷹のこと籍に入れて貰えたらすっごく嬉しいけど、あたしのことは、無理しなくていいから!天野さんはアイドルなんだし、あたし、ほんとに...」
「...馬鹿か?」
「へ?」
「何言ってんだ?おめえは...さっさと連れて行くに決まってんだろ?オマエだけさっさと連れてくわけにいかねえから、今はここに置いといてやるケドよ、予定では今夜も連れ帰って、その身体にもう一回判らせてやろうと思ってたのによぉ...」
「はい?」
「せっかくオレ、明後日まで休みなのに。サト、朝即来れねえよな?やっぱ無理か、雅鷹もいるもんな...」
「あの、天野さん?」
「あーもう、オレ今夜帰るのやめた!ここに泊まるぞ。オヤジさんに言ってこいよな。」
「む、無茶言わないでよ!こんな狭いとこに??」
「大丈夫だ、ちゃんと声出せないようにしてやる。」
「ちょ、ちょっとまって??」
「なんだよ、半年もオレを女日照りにさせといて、あれだけで済んだとおもってんの?」
「済んで、ないの...?」
「聞かれたくなかったら、さっさとオレの部屋に帰ってこい。今はそれは無理だから、オレがここに泊まるって言ってんだ。」
「そ、そんなぁ...でも、何で無理なの?」
「オマエ、一応チェックされてたんだよ。」
「チェック?」
「そ、週刊誌のカメラマンどもだよ...疑われる度に、他の女優とかアイドルとかと、噂それとなく流して貰って誤魔化してたんだよ。一緒にマンションに入ったことなんてあんま無かっただろ?サトはもともと顔売れてねえしな。けど、今度一緒に撮られても、もう他の噂流す気ねえから。だから、ちゃんと事務所にナシ入れて、対策立ててからだ。サトを部屋に連れ込むのは...」
じゃあ、いままでの噂は、あたしのための、偽のスキャンダルだったの?


天野さんの突然のお泊まり宣言の後、しばらくはリビングで異母弟妹達の相手をしてくれてた天野さんは、弟と一緒にうちの狭い風呂に入って上機嫌だった。さすがに異母妹は入ろうとしなかった。
雅鷹は既にオヤジさんがお風呂に入れていたので、天野さんに向かって勝ち誇った笑顔をしていた。オヤジさん、すっかり孫馬鹿です...
それでも雅鷹を寝かしつけてる間、ビール飲みながらオヤジさんと一緒にプロ野球ニュース見てジャイアント談義に花咲かせてた。
「え、オヤジさん渋いですね〜城野塚のファンですか?アイツ今期頑張ってますよね!サイン、いります?今度貰ってきましょうか?」
信じられないことに、うちの家族にサービスたっぷり、バラエティバージョンの天野さんが居た...
もしかして、天野さんなりにうちの家族のご機嫌とってるのかなって思った。異母妹からは賀沢東吾や草原篤志のサインを強請られてた。異母弟からは大日向祢音のサインを頼まれてた...
ほんとにあの、天野さんからは信じられないくらいの低姿勢だった。


「ねえ...」
「あん?」
部屋に戻るとき、客間から布団一式持ち込んで、オヤジさんのパジャマ借りたけど着なくて(サイズがでかかった...)結局、相変わらずTシャツとトランクスの天野さん。
さっきからベビーベッドの中、すやすや眠る雅鷹を飽きもせず見つめてる。
天野さんにも父性が湧いてるんだろうか?
あ、ちょっと、寝てる子のほっぺつんつんしないでよ!起きると大変なんだよ?
雅鷹がぴくってしたので急いで手を引っ込めた天野さんは布団にどかっと腰掛けた。
「オレの子、なんだよなぁ...実感湧かねえけど。」
「す、すみません...」
「けど、かわいいよなぁ、ちっちゃい手して、寝てるトコなんか、オレの持ってる赤ん坊の時の写真とマジクリそつで、不思議なんだけどよ。オマエの家族もおもしろいわな、母親はオマエと歳変わんねえし、あんなちいせえのが兄弟にいて、つーことは、オレにとっても義理の弟妹に義理の母ってわけだ。オレより下なのにな。」
「ほんとだ...嫌?」
「嫌じゃねえよ。一遍に家族増えるんだなって思っただけだ。」
あたしは天野さんの目の前に正座してその顔をのぞき込んだ。
「ね、さっき、オヤジさんの前でいろいろ言ったよね?」
「何を?」
「好きだとか、愛してるとか、結婚とか...」
「あ...いったっけか?」
「言った。だけど、あたしは、直接言われてないんだけど?」
「そっか?」
「そっかって...返事、してないんだけど?」
「おい、まさか、今更やだっていうんじゃねえだろうな?」
ぐいって顔近づけてくる。あ、ダメ、この怒ったような目に弱いんだった...
「言ったらどうする?」
ちょっと、反抗心出して聞いたが最後、くつろぎムードから急転直下、オレ様モードに?
「今夜一晩じっくりと、うんって言わすにきまってんだろ?」
うわぁ、凄みきいてます。
「あの〜、ここにはあたしの家族が、居るんだけど?」
「しらねえ...素直じゃねえオマエが悪い。」
「そ、そうさせたの、誰よ?」
う、迫ってくる...
「オレか?けどな、いつだってサトの身体は正直だったぞ?オレだって、ちゃんと身体で言ってただろ?」
「な、なんて?」
それが聞きたいのに!!
「そのうち言ってやるよ。」
「もう!!」
そのまま押し倒されて...口では反論しても、身体は天野さんの熱を欲してた。重ねられる身体に、天野さんの匂いを感じて実感する。
包まれてたんだ...
ずっと前から。身体を重ねたときから、この人はあたしを求めててくれていた。
その手が、唇が、いつだってあたしに気持ち伝えてくれていたのに、気がつかなかったのはあたしの方...
アイドルなんだから、あたしなんかきっとって思いこみで、判ろうとしてなかっただけ。
「あん、やだっ...そんな、んんっ!」
パジャマをはだけられて、指で稜線をなぞられる、それだけで、感じてしまうこのからだ。
「布団ってさ、こうやってると意外とエロイな...」
雅鷹が眠るベビーベッド(異母妹達のお下がり)の下、和式の布団は狭い部屋を占領して、その上であたしを見下ろしてニヤって笑う天野さんが居た。

「おら、声だすなって言ってんだろ?」
「だって、無理...んっ!」
早速責められて、おねだりさせられて、ようやく繋がると今度は意地悪く緩急つけて揺さぶってくる。
「ね、うちの家族にはあんなに甘いのに...どうして、あたしには?」
「そりゃ、気に入られたいからな。俺、出遅れてっしよ。けど、オマエは、黙ってたバツだ。いくら何でも俺がそんなちっせえ男だって思ってたんか?それが許せねえ。オマエは一生俺を欲しがるように教育し直しだ。」
「そ、そんなぁ...」
「嫌ならやめるぞ?もう、やめられないんだろ?んっ、く、まあ...俺もだけどよ。」
「はぁん、だけど、天野さんだって何も言ってくれなかったじゃんっ、あああっ!!」
激しい抽送に代わってあたしは身体を跳ね上げる。
「声、押さえろよ、聞かれるぞ?オヤジさんや兄弟達によ。」
「ふぐっ...」
あたしは自分の手を当てて必死で堪えた。だけど激しい腰の動きは一向にあたしを離してくれない。突き上げられて、身体を震わせて、その度にどこかに行ってしまいそうになる。
「ま、さひろぉ...も、だめ、イクっう...ん!」
「里理...っ!くっ!!」
最後にお互いの名前を呼び合って果てるまで、天野さんはあたしに言ってくれなかった。
一番欲しい言葉。

「まあ、今日はこのぐらいにしておいてやるよ。」
天野さんはその胸にぐったりと倒れ込んだあたしの髪を触りながらそう言った。
言ってる台詞と、やってる仕草にすごく差があるんだけどって思いながらも、動かない身体では、なにも反論できなくて...
やたらと優しい天野さんに驚きながらも、今まであたしが甘えなかったのもいけなかったかなって反省しながら少しすり寄ってみる。
ぎゅうって抱きしめてくれるその腕に驚きながら、あたしは安心して眠りについていく。
今までとは桁はずれなくらいの安心感。
あたしは天野さんにちゃんと思われてるって、実感。ちゃんと言葉じゃなくて身体でも言ってくれてたんだ。あたしが信じ切れなかっただけで...

『愛してる...』
寝入る間際に耳元で小さく囁かれた言葉に、夢かうつつか判らなくなっていたけれども、明日は今日よりもうちょっと素直になってみようかなって思った。

もう、偽物じゃない、本物になれた二人だから...
−END−

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