HOMEアイドル小説目次フェイクTOP

フェイク


押し問答が続いてました。
「どこに住んでるんだよ?」
「実家...」
「じゃあ、男は?」
「居る、一緒に住んでる。」
「オマエ、男と実家に住んでるって、相手のオトコの実家か?もう結婚しちまってるのか?」
「し、してない!あたしの実家...」
「じゃあ、なんだ、公認で同棲してるのか?とにかく、教えろ、どこなんだ?」
「う〜〜〜〜」
「ったく、また黙秘か?」
言えなくて、もう、堂々巡り。
「サト、実家教えねえと、裸に剥いて、そこの公園に放り出すぞ?」
「え?」
目の前には覗きが出るので有名な公園が...
「やだっ、そんなぁ...やだよぉ、許して、言うから!!」
本気でやりそうで怖いんだもん...
「じゃあ、言えよ、このまま真っ直ぐか?」
「...はい」
別段わかりにくい場所にあるわけでもない実家には40分後、素直に着いてしまった。


「押せよ。」
そう言ってインターホンを顎で指す。左手はあたしが逃げないようにしっかりと腰に回っていて、身動き許されてません。
時間はもう夜の8時まわっていて、今だったらオヤジさん帰ってきてるかな?帰ってなかったら雅鷹もいるから、真美子さん一人だと大変だと思う。お風呂、困ってるだろうなぁ...もしかした、オヤジさんが嬉しそうに入れてるかも知れないな。異母弟と妹の時もそうだったもんね。速攻帰ってきてお風呂に入れてた。あたしが赤ちゃんの時は学生結婚だったため、実家に長く母親が帰っていたため、義父にその役取られたのが残念で、すっごくやりたかったそうだ。
無言で脅迫されて、インターホンを押すけど、判ってるのかな?ここ、あたしの実家なんだけど...そんな、眉を寄せた怖い顔して、子ども達が出てきたらどうするんだろう...泣いちゃうかもだよ?普段のハイテンションの天野さんとは180度違いすぎるもん...
「はーいw」
「あの、あたし...」
インターホンに出たのは真美子さんだったんだけど...
「里ねえちゃん〜遅かったね、まぁくん待ってるよ?」
出迎えてくれたのは、下の異母妹の未美ちゃんだった。
「えっ??あれ...里ねえちゃん、この人って、もしかして...天野くん?ヤモリと一緒に<笑っていいカナ?>に出てる...」
ってしょっぱなからバレてるよ?この子J&M大好きっ子なんだからね...?
「あの、えっと...」
天野さん、すっかり毒気抜かれてる...だから急いで紹介する。
「この子はあたしの異母妹で、未美っていうの。」
「あ、ああこんばんわ。未美ちゃん、まぁくんって?」
一生懸命テレビ用の愛想のいい顔に戻した天野さんがニッコリ笑って未美ちゃんに問いかける。だけどいきなりアイドルタレントを自宅の玄関に迎えた未美ちゃんは目線が離せないまま、焦っておたおたと指さした。雅鷹をだっこしたまま玄関まで出てきた、オヤジさんを...
「ああ、里理。遅かったな、待ってたんだぞ、遅くなるならなるって...」
ちょっと眉をしかめてた。ちょっとまって、いくら若く見えるって言っても50のおじさんが『まーくん』のはずないでしょ??その目、勘違いしてません??
「お願いです!里理と別れてください!!」
「はぁ?」
「オレは里理を...愛してるんです。もう、絶対に離れられない。だから、里理と別れてください!!」
やっぱり...天野さんには『まぁくん』がうちのオヤジさんに見えたらしい。
それは、違うでしょ??
「何だね、キミは...いきなり人の家に押しかけて失礼じゃないかな?」
「天野と申します。お願いします、里理さんをオレに下さい。」
「え?里理を??だ、ダメだよ、この子はやれない...私が責任を持って面倒見てやるつもりなんだ。キミには悪いが、ただ好きだとか、愛してるとか言った軽い気持ちだけでこの子と、そのすべてを受け入れることが出来るとは思わないよ。この子のこともある、キミはこの子をその腕に抱けるのか?無理だろう?いきなりこの子を渡されても...それだったら無理だから、帰りたまえ。」
オヤジさんの視線はまぁくんに落とされた。それを天野さんはどう思って見つめたんだろう?
「子ども...?まさか、サトリの?」
あたしを振り向く天野さんの視線。
「えっと...そう、あたしの...」
あたしとあなたのって言いたかったけれども、それを言ったら、オヤジさん激怒するかなって、ちょっと躊躇した。だけどじーっと雅鷹を見つめて、そのあとあたしを見るとすっごく怒ったような視線をあたしに向けて、ゆっくりと天野さんが尋ねてくる。
「どう見ても、オレの子に見えるんだけど...まさか、だよな?」
「う、うん...雅鷹って言うの...」
あたしは観念して素直に答える。思いっきりため息ついた天野さん。その一言で悟ったのか、オヤジさんも『え?』って顔しながら雅鷹と天野さんの顔を見比べて指さした。
『雅鷹の父親か?』
視線で聞かれて頷く。でもって視線で
『そうだけど今は何も言わないで!!』
とお願いする。何とか通じてるかな??ちょっとダメっぽいけど...
一息ついた後、天野さんは一歩前に出ると、オヤジさんの腕の中に手を伸ばした。
オヤジさんはそのまま雅鷹を天野さんに抱かせた。
「オレの赤ん坊のころの写真にそっくり...」
「キミが...雅鷹の父親なのか?」
オヤジさんが珍しく眉を寄せて、今にもキレそうな視線を天野さんに向けていた。ヤバイ...日頃温厚なオヤジさんだけに、ダメですって!!
「え、はい、たぶん...そうなんだよな?サトリ。」
オヤジさんは雅鷹をカレから引き離した。未美ちゃんに引っ張られて、いつの間にか側まで来ていた真美子さんに渡すといきなり天野さんの襟首を掴み上げた。身長180近くあるうちのオヤジさん。その差の分、天野さんの身体が宙を浮く。
「貴様、よくも娘を孕ませておきながらしらん顔しおって...!!」
「え??娘って...サトリのおとうさん??」
天野さんの顔が引きつる。
「待って、オヤジさん、天野さんは知らなかったの、あたしが勝手に産んだんだから、天野さんは悪くないの!!」
必死でその腕に縋って殴るのだけは阻止する。だって、天野さんの顔に痣作るわけに行かないじゃない?アイドルだよ?タレントだよ?顔が商売道具なんだよ?その痣の理由をまた週刊誌が根掘り葉掘り調べに来るんだから...
あたしの勢いに押されたのか、オヤジさんの手が緩んで、天野さんはそのまま地べたに落とされる。
すぐさま天野さんは玄関先で手をついて頭をそのまま地面にこすりつけた。
「申し訳ありませんでした!!その子の父親は間違いなくオレです。何も知らなかった...いや、そうさせてたのはオレで...改めて、おとうさん!!サトリをオレに下さい。幸せにします。その子も、二人を必ず!!」
「いや、しかしだな、女に一人で子どもを産ますなんて...」
「哲さん、しかたないわよ。その人、見たことある顔でしょう?」
「え?」
真美子さんに言われて、オヤジさんはじっと見つめる。
「あ、プロ野球ニュースの...天野くん???」
未美ちゃんならイイカモで、オヤジさんはニュースか...
「あ、はい...」
「ジャイアントファンのっ!」
そこですか?まあ、オヤジさんの世代にアイドルだのなんだと言っても判らないものね。オヤジさんもジャイアントファンだから、しかたない。
「子どもができただなんて、すごいスキャンダルになってしまう方よ。里ちゃんが身を引いて、黙って産んだの判る気がするわ。」
「し、しかしだな...」
「とにかく上がって頂きましょう?玄関先で済ませたらイケナイ話しでしょ、ね?」


応接間に家族全員揃ってます。
未美ちゃんはうっとりした視線で天野さんを見つめてるし、弟の良は物珍しげに見てるし、オヤジさんはむっとしたままこっちの話しをきいている。真美子さんは雅鷹を抱いたまま、あたし達の話しをにこにこときいていた。
そう、あたし達、あたしと天野さんの会話。
「で、なんでオレに何にも言わなかった?」
「だって、言ってもしょうがないかなって、思って...」
「なにがしょうがないだ?そりゃ、言葉が足りなかったのは悪かったと思ってるけどよ、それはねえんじゃねえの?黙っていなくなるわ、いつの間にか子供産んでるわ...オレが事務所まで訪ねて行かなかったら、そのままずっと会わない気でいたんじゃないだろうな?」
「あう...」
その通りですとは言いにくいんだけど...
「オマエの言う、別れられない男って、子どものことだったのか?」
「...はい」
「ったく、話しややこしくしやがって!!」
怒ってます。それはもう、覚悟してましたけど...心なしかオヤジさんの視線が天野さんに同情的?
「でも!!元はと言えば、天野さんが...」
「その話はここに来るまでにたっぷり話しただろ?もっかいされてえか?」
「い、いえ、もう結構です、はい...」
この人にあたしが敵うはずなかったんだよね。
ため息。
天野さんは体勢ごとオヤジさん達の方に向き直ると、一瞬にして真剣な顔つきに変えた。
「おとうさん、その子...雅鷹は間違いなく僕の子です。里理さんとはお付き合いさせて頂いてもう6年になります。その間ご挨拶にも伺わずにすみません。仕事柄、女性関係をおおっぴらに出来ず、彼女には辛い思いをさせてきました。僕も...口のうまいほうではないので、かなり誤解されてたみたいですし、二人ともかなりの意地っ張りだったみたいで...結果こんな形になりましたが、里理さんを僕に下さい。結婚を認めて頂けませんか?」
ドラマモードの天野さんはいつもの1,5倍増しで凛々しくかっこうよく見えてしまう。こんな表情、普段では絶対見られないから...
「ダメだなんて言えないよなぁ...」
「そうですよね?」
真剣な天野さんの態度とはかけ離れたのんびりした、夫婦の会話。
「で、いつ?」
「はい?」
オヤジさんの問いに今度は天野さんが焦る。
「貰ってくれるんでしょ?だから、いつ?」
「そ、それは...オレはすぐにでも籍入れてしまいたいんです。ただ、事務所を無視するわけにはいかないんで、それだけは、判ってください。」
「すぐは無理だと?それはまた、誠意のない話しですね。既に子どもまで生まれているのに?そんなので守れるんですか?私の娘と孫を守っていけるんですか?」
「すみません!!でも必ず、守ります、二人を...」
「そう、ならばあとはお任せします。里理がここにいた方がいいなら、いつまでもいていいですし、連れていきたいときにどうぞ。ただし...」
「はい。」
真剣な目のオヤジさん...
「たまにはまぁくんとお風呂に入れさせてください。」
「はぁ??」
「いや〜〜可愛いんだよ、一緒にお風呂にはいるとね〜」


オヤジさんの孫惚気は30分以上続いた。

back  next

HOMEアイドル小説目次フェイクTOP