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別れるきっかけはあっと言う間にやって来た。 4年に入ろうとする今まで、ずっと待ってても来なかったのに... 「さとりちゃん、食事行こうよ?」 ADの住田くん、しつこいっていうか、熱心って言うか... 本気なのかな? 「でも...」 今日は邪魔しないのか?少し離れたところで打ち合わせ中の天野さんはこっちを見向きもしない。 こんなあたしでも、年に数回はこうやって誘われることもあるのよ?たまには数人で飲みに行くことだってあるし... だってね、いくら向こうがモテるからって女のコロンぷんぷんさせて帰ってきたり、ポケットにランパブ(ランジェリーパブのことらしい)のホステスの女の子の名刺が突っ込んであったりすればね!いくら家政婦でも頭に来ますって。 もう...アイドルがなんてトコに行ってるのよ? それ以外にも上げてたらきりがない。「1週間来るな」って連絡があったり、「1ヶ月ほど戻らないから掃除しとけ」とか... たまにはね、外に食事とか、デートに行きたいのに誘って貰ったことがない(理由・見つかるとヤバイしめんどくさいから)未だにスタッフとして意外は出かけたこと、ないです... それに、天野さんは今、共演の女優さんと噂になって、芸能雑誌が張り込んでるから。 「しばらく来るな」って言われてるし、どうやら、今回は本命みたいで、滅多にならない天野さんの携帯にしょちゅう着信があるのを知ってる。これってリークしたらすごいスクープだよね? 前に1週間行けないときは控え室とかで手出されたこともあったけど、今回は大人しいっていうか、すぐに携帯が鳴って、あたしは控え室から追い出されちゃうんだもん。 はあ...あたし、馬鹿みたい... 捨てられるの判ってて、文句一つ言えないなんてね。だったら、向こうが切りやすいようにするのも、あたしの最後の勤めだよね?泣いて縋るのも、取り乱すのもいや。すっぱりと別れてやるんだから!ってその前に付き合ってるでいいんだよね??そんな証は一つもなくて... たまに番組の景品で貰って帰ってきた女物のアクセサリーとかは、「家政婦代、しっかり働け」っとかいって貰ったけど、それをあたしがつけてても、「なんださとりちゃんがもらったの?持って帰るのもめんどくさかったんだね〜」なんて言われるだけなんだから、心配のしの字もない。 だから...いいよね?お誘い受けちゃってもさ? 「ここ、おいしいって評判でさ、さとりちゃん、前に行きたいって言ってたじゃないか?だから、行こう、もちろん奢るから!」 「そうだね、行こうかなぁ...」 「よしきまり!仕事終わったあと、まってるから。」 本番が終わって、あたしは衣装を回収すると、さっさと帰ろうとした。 理由?もちろん、この暴君が暴れ出さないうちに決まってるじゃない? 「さとり...いくのかよ?」 「行っちゃいけないんですか?あたし、あの店前から行きたかったんです。外食なんて打ち上げで行く大皿料理の所以外、夜のディナーなんて出掛けたこと無いですから!!」 ほとんど皮肉だけど...本当のことだもん。 「じゃあ、もうくんなよ?」 「え?」 それって... 「鍵、置いてけ。」 「あの...」 家政婦は続行じゃないんですか? 「なんだよ、そうしたいんだろ?」 いつもと違う...テンションの高いテレビ用でも、シリアスなドラマ用でもない。おまけをいうなら、あたしをいじめてるときの天野さんでもない。 暗い低い声に怒りも見えない。ただ冷たくさよならを言われただけ... あたしは黙って鍵を出す。 なんか思ってたのと展開が違うんだけど? 「じゃあな。」 その鍵をポケットにしまうと、天野さんはさっさと控え室を出て行った。 捨てられた? そうなるよね... 4年ぶりのフルコースの料理も砂を噛むようで、味なんてちっともしない。ワインに悪酔いして、帰り道泣き出したあたしに住田くんがこういった。 「今日のさとりちゃん、いつもと違うね?元気がないの、なんかあった??あのさ、俺、友達、飲み友達でいいよ。カレシになれるのはまだまだ先っっぽいけど、愚痴なら聞くから、しばらくは友達として付き合って欲しいな。隙だらけのさとりちゃんに手出したいって思うけど、本気だから出さない。今夜は送るよ。」 そういって部屋の前で背中を向けて帰っていった。 手、だせばいいのに... 今のあたしなら、慰めてくれる相手になら身体を開いたかも知れないのに? 優しすぎるよ...住田くん。 あたしはカレの帰ったあと、部屋で布団に潜り込んで泣いた。 翌日は休みだったのが幸いして、朝まで泣いた。それから、洗濯して、掃除して、ゆっくりお風呂に入って、お手入れして。泣いた後を隠して平気な振りして仕事に出なきゃ行けなかったから... 苦痛だった。 出会うのも、顔合わすのも... 「先生...あの、担当替えってないんですか?」 スタイリストの師、白井先生に聞いてみた。 「あら、天野くんだめ?カレもあなたの出す服には文句言わないから合ってると思ったんだけどね。そうね、イメージ一新のためにも替えましょうか。」 わずか3日後、あたしはJ&Mとは全く関係のないアイドルの女の子専属になって、それなりに忙しい日を送り続けた。 ちょっと、無気力な日々... 一緒にご飯食べる人もいない。1、2度住田くんと会ったけれども、友達止まりだっていうのはお互いに判ってるみたいで。進展も何もない。 週刊誌では、また天野さんが噂になっていた。例の女優さんとどこかで食事した所を撮られたらしい。 ああ、もう、決定的... 連絡なんてあるはず無いのに日になんども携帯を確認する。 「はあ...」 「どうしたんですかぁ?珍しいですね。ため息なんて。」 「あはは、まあね、女も年とるとね?いろいろあるのよ。」 今年で26、クリスマスも過ぎました。 あ、あさって誕生日だった... そういえば、去年だったっけ、初めて誕生日に何かもらったの。 その前は忘れられていた。そのまた前は聞かれもしなかった。 去年もらったのって、ブレスレットだっけ?それもメンズの...だって、天野さんって、めったにおしゃれしないけど、太目の鎖のネックレスやブレスはするんだよね。 もらったのは、その時つけてたブレス。 『誕生日?なんだよ、その目は...わかったって、じゃあコレやるよ。』 そういって放り投げられた鎖...どうやらあたしが欲しそうにしてたらしい。 それでも、うれしかったんだ、あたし。はじめて誕生日にもらったんだもの。今でも毎日つけてるんだよ?天野さんに繋がれてるみたいで、安心するから... でもいい加減はずさなきゃいけないかな? 実は鍵返したのはいいけど、困ってるんだよね... だってあたしの私物、少しだけだけど、置いたまんまなんだよね。そりゃ捨てられてるんだろうけど、もしそのままならもって帰りたいんだけどなぁ。 そりゃぁ、そのときにもらったものは返せって言われても困るものばかりだけど...だって、思い出が詰まってるんだよ?天野さんにとってはなんでもないものでも、あたしにとって、凄く大切な思い出... 別れてから3ヶ月、あたしは思い切って連絡した。 <部屋に置きっぱなしになってる荷物を取りに行きたいので、今晩お部屋に行ってもいいですか?無理なら、一日鍵を貸してもらえたら、お昼間に処分しておきますけれども。 サト> 返事は、やっぱり1行 <来るな> ひどい...いくら別れたからって... あ、 彼女できたんだ?だから部屋中のもの処分したとか? なんか、思ってたよりショックだった... わかってたのに、付き合ってたわけじゃない、遊びでもない、ただの...家政婦みたいなものだったって。 ダメだ... 今時分、ショックきちゃったよ。 そんなときに限って、重なるんだよね、無情な仕事が... 「ごめん、天野君についた子がさぁ、ぼろくそに言われたらしくって、もういやだって言ってついてくれないのよ。ごめん、次の子探すまで、さとりちゃんついてあげて?あたしから事務所のほうには伝えておくから、ね?」 いったい何言って苛めたんだか...想像がつくわ。まさか、あたしみたいに家政婦させようとしたんじゃないわよね? 仕方ないと思いつつ、すごく嬉しいのは何でだろう? あたし、やっぱり天野さんのこと、忘れられないんだ... やっぱりすきなんだ。 でも、明日、きっと、ひどくあたられるだろうなぁ...天野さん、容赦ないから。 |