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フェイク


「何でおまえがいるんだ?」
やっぱり...すっごく冷たい一言。
「あの、うちのセンセから連絡いってませんか?」
「しらねー」
「天野さんが新人苛めるからでしょ?」
「しょうがねーだろ?あんなわけのわからん衣装もってくるんだからな。」
「とにかく今日はこれ着てください。」
「わかった...」
よかった〜、結構すんなり聞いてくれたわ。
「サト...」
「は、はい?」
「いや、何でもねえ、コーヒー買って来い。」
そういって渡される500円玉。
「いつもので、いいんですか?好み変わってません...?」
「ああ、おまえの分も買って来ていいから。」
いつもの通りだった。それだけでもうれしかった。

「あ、さとりちゃん、久しぶり〜担当戻ったの??」
廊下で住田くんと出会った。仕事で会うのは3ヶ月ぶり。あのあとの数回会ったのも他の仲間も交えて飲みに行っただけで、天野さんの担当はずれたら顔合わすことなんて無くなってしまった。
「違うんだ。後任の子がギブしちゃったんで、今日はピンチヒッターなの。」
「そっか。な、またいつでもいいから御飯いかない?」
「ごめんなさい...」
「いや、いいんだ、何となく判ってたからさ。じゃあ、また気が向いたら、仕事頑張ろうぜ!」
元気に手を振って立ち去る住田くん。ふ〜、いい人なんだけどね。これ以上気を持たせたらカレに悪いもんね。他の人と付き合うなんて、あたしには無理だってわかったから。
「なんだよ、もう別れたのか?」
「え?」
天野さん、見てたんだ?
「最初っから...付き合ってなんかないよ。」
「...っなんだよそれっ?!おまえ付き合うって言ってたじゃねえか!!」
「え?だから、食事、付き合いましたけど?」
「食事...だけだったのか?」
「少し飲みに行ったりはしましたけど...他のADの仲間とかとも一緒だったし...食事は、行ってみたかったんだもの、あのレストラン。」
天野さんはそれっきり黙ってしまった。


「それじゃお疲れ様でした!!」
収録が終わって、帰宅しようとした時、携帯が震えた。
メール、天野さんから...
<おまえの荷物返してやる>
その一言...
喜んでいいのか、悲しんだほうがいいのか。
あたしは天野さんのマンションへと向かった。

「な、なんですか、これ???」
3ヶ月ぶりの、天野さんの部屋...
ひどい。
ひどすぎる〜〜〜!!
「天野さん?コレどうする気ですか??こんなんじゃ彼女も呼べないじゃないですか?」
「いいんだよっ、おまえが来なくなったから、こうなっちまったんだ。」
来なくなったって...来るなっていったのオタクなんですけど??
「もう、ひどすぎますっ!!」
あたしは勝手知ったる〜であがりこんで片づけをはじめる。
天野さんはいつもの場所でテレビ見てる...もちろん野球のニュース。
とりあえずの片づけをして、あたしの私物を整理してひとまとめにした。
「あの、じゃあ、これもって帰ります。」
「サト...腹減った。」
「なっ...」
この人はもう〜〜〜!!あたしはもう必要ないんじゃないの?
それなのに、台所に立ってるあたしってどうよ?簡単に、保存系の食材で有り合わせの物を作ると、天野さんに差し出す。ついでに冷蔵庫の中の生鮮食品のなれの果てを処分する。調理済みのもの以外はそのまま手つかずに残ってたから。だからコレで判る。女の人が台所に入ってきてない...
「サトの漬物、食いてえ...」
「もう、そんな急に言われてもありません!明日、家で作ってた分渡しますからっ。そのうち彼女が出来たら、ヌカ床分けますから、作ってもらってくださいね。」
返事もせずに食べてる...相変わらずなんだ。
「じゃあ、あたし帰りますね。ゴミわけときましたからちゃんと捨ててくださいね。」
「洗濯、溜まってる。」
「もう、その位してくださいよぉ!」
「掃除機全然かけてない。風呂も洗ってねえ。」
「ちょっと、待ってくださいよ。それ全部やってたらあたし帰れませんよ?」
「やってから、帰れ。」
もう...この男は!!泣きたくなるわよ。あたしは家政婦かってんだ!
今は、もう違うのに...
仕方なく掃除するあたしもあたしなんだけれどもね。
こんなの一日では無理だわ...


「お風呂洗うついでに使ってもいいですか?」
「ああ」
なんとか、形だけでも綺麗になったわ。隅々とか、無理だったけど。
洗濯機も何回目だろう?
「よし、綺麗になった〜」
お風呂もぴかぴか、ついでに自分もピカピカ。変えてなかったんだなぁ、シャンプーとボディソープ。あたしが買ってきたのとおなじのが置いてあった。
「じゃあ、あの、帰りますけど?」
「.......帰るなよ。」
「え?」
聞き逃しそうなほどの小さな声。
「溜まってるんだ。3ケ月、女抱いてねぇ...」
「そ、そんなのあたしに関係ないじゃないですか??」
「おまえは?」
「え?」
「おまえは、他の男に突っ込ませたのかよ?」
「なっ、何言ってるんですか、関係ないでしょ!天野さんには...」
ひっどい、もう下品な言い方も昔のまんまで...
あたしはこの男に4年も抱かれてたんだ。4年もこの部屋で料理作って、掃除して、洗濯して、それから...他のオトコなんて知らない。天野さんしか覚えてない。だから、捨てられてから、寂しくなかったかっていったら嘘になる。
ずっと寂しかった。
この部屋の間取りも、部屋に籠もる天野さんの臭いも全部覚えてる。
天野さんの声も、指も、身体も...
欲しかった。
いやらしいぐらいに、欲しかった...

「フン、確かめてやるよ。」
「ま、待って...」
「待たない!」
ベッドに突き飛ばされる。そのとたん天野さんの匂いがあたしを包む。
「やっ...」
本当は嫌じゃない...欲しいぐらいだもん。
だけど、そんなに素直に抱かれるわけにはいかないもの。だって、あたしは3ケ月前に捨てられたんだよ?それまでだって、何の言葉も貰ったことなくて、避妊もして貰えないから、ずっと、ピル飲んでて...
そうだ、ヤバイよ!あたし、天野さんと別れてからピル飲んでない...
この男が避妊具なんて使ってくれる可能性なんてないだろうし、持ってるか?って言えばもっと疑問で...じゃあ、他の彼女の時、どうしたんだろう?
まって、さっき...
『3ケ月、女抱いてねぇ』
って...あれって空耳だよね?
あたし捨てて女優といちゃこいてたんじゃなかったの??
ああもう、ヤバイ、ダメ、絶対に...
こんな奴の毒牙に再びかかったら、あたし...もう絶対お嫁に行けない!!
あたしは急いで暴れる。抵抗して逃げ出そうと試みる。
「なんだよ、本気でイヤなのかよっ?本当はどうなか、調べてやるよ...」
組み伏せられて、首筋に這う唇。
「やめて...」
好きじゃないなら、もう抱かないで...苦しいだけじゃない?
暴れると、側にあったタオルで手首を縛られた。
「やだ、これほどいてっ!」
「ダメに決まってんだろ?」
カットソーをブラごとまくり上げられる。大きくない胸にいきなり吸い付いてきて...
「やぁあ!いったぁい...」
思いっきり噛まれた。
やだよぉ...怖いよぉ...
手首を縛ったタオルはベッドボードにくくりつけられて益々動けない。
「どうせおまえのことだ、いやいやって言いながら、男誘ったんだっろ?ん?それで満足できたのか?オレ以外の男で満足できたのかよっ!」
痛いほどの愛撫、なのに下半身には熱い疼きが生まれていた。
判ってるんだもの、どれほど気持ちよくさせられるか、イキそうになったら意地悪されて、お願いしないと入れてくれなかったりとか、イヤらしい動きをするたびにそのことを告げられて、恥ずかしくて、でも止まらなくて...
いつだってあたしは天野さんに好き放題されて、でも最後はちゃんと一緒にイッてくれて、朝までその腕の中で眠って...
だから、抱かれるたびに、勘違いしまくってた。
愛されてるかも、なんて...
今日だって、そんなに切ない顔で抱かれたら、勘違いしまくっちゃうじゃないの?
単に3ヶ月、ヤレなかっただけの、捌け口にしか過ぎないのに...
家政婦もさせられて、コレも?って感じだけど、それでもって、終わったら荷物もって帰れって言われるだろうけれど...そんなの判ってるけど...
もう終電ないよぉ...タクシー拾わなきゃ。
それよりも何よりも
今は何とかして、逃げなきゃ!!!

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