HOMEアイドル小説目次フェイクTOP

フェイク

結局なんだったんだろう?
あれからまた、鍵渡されて、『メシ、風呂、寝る』の生活。
あ、もちろん天野さんが言ってるだけで...最後の『寝る』は、思いっきりアレのことみたいだけど、逃げた。いや、逃げてる。たまに逃げ損ねてるけど...
だって、避妊なしなんて、怖いじゃない?
でもね、つけてくれないし、外にってたまにだし...
危ないからって言ったんだよ?もうピル飲んでないって。
そうしたら、はやく医者に行けって言うかと思ったんだけど、言わないんだよね。なんでだろ?
言動はどこか優しい気もするけれども、やっぱり相変わらずなわけで...
スタイリストの後任もなかなか見つからなくって、どうしようって悩んでた。
写真の方も、結局全然何ともなかったわけで、またまた天野さんに彼女疑惑が出たぐらい。バラエティで共演してるアシスタントの子だって、話してるのは見たけどそれだけなのに?
だって、夜は、その、たいてい部屋にあたしが呼ばれてるし、今回は写真屋さんも張ってないみたいで...噂だけ、みたいだった。


生理はあれから来てない。
ヤバいなって思うけど、ピルのせいかなって思ったり、確かめるのが怖かった。
そのうちに身体に変化が出てくる。
「うっ...」
最初は香水きつい人が通る時にちょっとむかついただけだった。
それが、しまいには御飯炊いた匂いとか、お味噌汁の匂いとか...
食欲は夏だからないと思ってた。だからそうめんとか、ざるうどんとか酢の物とか食べてたんだけど、だんだん順番に食べれるものがなくなっていく。
気分悪いのは夏ばてかなって。
そうしたら...
「サト、おまえ胸でっかくなった?」
「え?まさかぁ...」
たしかに、さいきんむかつくから、タンクトップにカップのついてるのばっかりだったから気がつかなかった。
「ま、オレはどっちでもいいけど?」
「ひゃっ...んっ」
今夜は逃げ損ねた。夕飯作ってトンズラしようとしたとこを捕まって、玄関先で後ろからされて、今はソファの上...
「サト、上にのれよ。」
イヤって言わせてもらえない。わかってるんだけど上に乗らされても、自分で動けなくって、突き上げられる。
「あ、だめ、また気分悪くなっちゃう...」
「え?またか...マジ明日医者行ってこい。」
やっと言われた...でもね、そういいながら最後までするくせに...まあ、今までより心配してくれる分ましだよね。

で、行ったんだけど...
やっぱり、内科から産婦人科に回されました。
尿検査でしっかり出てました。

妊娠反応

ああ、もう、やっぱりっていうか、やっちゃったって言うか。
こんなの言えるはずないんだけど...
でもさ、エコーって言うの?アレに映ってる姿見たら、こう、ジーンとしちゃって。
前に真美子さんって、あたしの義母ね、オヤジさんの奥さんのそんな写真見せてもらったことあったけど、ナニコレ?ッて感じだった。自分のだったらいいんだ、全然可愛いんだ...
あたしの赤ちゃん。
天野さんとの、子供...
くすぐったくって、嬉しくって、悲しかった...
絶対ダメって言われるよね?産むの。
だって向こうはアイドルだよ?家政婦に赤ちゃん出来ても喜ばないって。
下手したらスキャンダル。それだけで進退決まっちゃう世界だもん。判らないうちに処分しちゃうか...ってやだよ?だって、あたし子育ては自信があるのよ!!
なんてったって異母弟は半分あたしが育てたようなものだもの。義母の真美子ちゃんはあたしと年変わらないんだ。17の時にオヤジさんが連れてきた18歳の女の子だったもん。いまや2児の母だけど、最初は酷かったよ?家事なんか一切出来ないお嬢様でさ、うちの親父の所に転がり込んで来て、実家とは縁切られたらしい。ったく、教え子に何か手出すから...って真美子ちゃんの方が猛烈に熱愛したそうだけど...
オヤジさまは、高校の教師だったんだよね。卒業した後だからよかったものの、どうする気だったんだろうと思うよ。娘と1つしか違わないのに?母さんが死んで10年以上だったから、あたしもしょうがないなって思ったし、まあ、いい子だったからね。で、出来ちゃっただったから、異母弟はなんと17歳差。オムツも離乳食も、お風呂も、全部あたし、経験済み。
あ、夜泣きもだよ?
だから、じゃないけど...天野さんの子だから絶対、産みたいって思った。
天野さんは一生かかっても手に入れられない人だけど、その子どもなら、手に入れられた訳だし、その子がきっと言ってくれるはず...
『好き』と『愛してる』の言葉。
ちょっと卑怯かも知れないけど、避妊しなかった天野さんが悪いんだからね?


どうだったって聞かれて、軽い胃炎だって天野さんには言った。
「何だ、出来てなかったのか...」
って残念そう?まさか...
「で、またピル貰ってきたのか?」
「う、うん、貰ってきたよ。」
「じゃあ、今夜な。」
はう...
早速ですか?でもいつまでも誤魔化せない。
まあ、もういくらされたってもう出来ることはないんだけど、なんて..あはは、だって担当で同じ職場だったら逃げられないもん!あの目でさ『今夜来いよな』なんて言われたら...行かずにいられる強さがあればきっと4年もずるずる関係続けてないよ。
でもえっちは、何回かは『体調が悪い』で断ってる。ほんとはそれではすまないんだけど...悪阻で真っ青な顔してたら、無理強いはしてこなかったし。
そのうち後任が見つかってラッキーだったの。
こんどは天野さんも無理言わなかったみたい。あたしが具合わるがってたからかな?

職場でも会わなくなったんだけど、鍵持ってるからつい居ないとき狙って食事と家の片づけを...この間みたいにされたらたまんないもん。4年、その半分ぐらいの時間あの部屋に居たんだもん。愛着わくよ?
だけど、もうそろそろ限界。6ヶ月にはいるとね。
つわりはそろそろ治まりかけたけど、おなかがね〜ぽっこりと...もう誤魔化せないもん。特に天野さんの前では...脱げない....
だから、仕事も休みがち、大きめの服着て、ヒップホップ系に変わったの?って言われたけど、妊婦用コルセットで下腹締めて、なんとか。
天野さんからの一言メールと電話が五月蝿かったけど、日中に何とか部屋に行ってた。むこうのスケージュールぐらい、新しい担当の子や、白石先生使っていくらでも手にはいるんだから。
でも、もう2ヶ月えっちさせてない。
そろそろキレられそう...
でもその前に身体が限界。お腹も目立たないタイプだからよかったけど、これ以上はね。白井先生には、やめる意思表示はしてたのよ。だって迷惑かけちゃイケナイから、早めに身の回り整理して...先生も、結婚退職だって思ってくれたみたい。
で、仕方なく、7ヶ月の終わりで辞表を出しました。それから、アパート引き払って実家に返り咲き。
『赤ちゃん産みに帰ってきました。』
って言ったらオヤジさんには驚かれたけれども、真美子さんは大歓迎してくれた。
これで恩を返せるって、ね。
返せるの?まあ、あのあとまた一人産んでるから、大丈夫かな??
異母弟ももう9歳だし、下の子は6歳。元気で賑やかな実家で、あたしはくよくよする間も無かったくらい。心細く思ってるときに、誰かが喜んでくれてるのが本当に嬉しかった。やっぱり、歓迎されて産みたいよね?
「里ちゃん、あたしがついてるからね!!」
って一番危なっかしい人が言わないでください、真美子さん。
でも、心強かった...すっごく嬉しかった。
誰も味方いないと思ってたから、だから...ちゃんと産めるって、思えた。


さすがに9ヶ月に入るとお腹は大きい。
実は携帯は変えてなかったんだよね。先生と連絡とりたいのもあったし、天野さんとも...まだ繋がって居たかった。
電話は、かかってきてるみたいだった。辛いから、電源切ってるけど、時々電源入れるといきなりかかってきたりする。急いで切るけど...
メールはかなり入ってた。
まあしょうがないよね?
『どこにいるんだ?』から始まって
『おまえばっくれる気か?ゆるさねー』とか
『○○のシャツはどこだ?』とか
『漬け物喰わせろ!』まで
短い文でちょこちょこと...マメな人じゃないんだけどなぁ?携帯嫌いだし、メールも打つのがめんどいはず。
でもね、ないんだもん...
『帰ってきてくれ』とか、『実は愛してた』とか、期待してた言葉なんて、どこにもないんだもの...
はぁ...あたしってつくづく実用的な女だったのね。


無事、臨月を迎え、予定日よりも少し早くに無事生まれました!
超安産らしかったんだけど、それでもあたしにとっては結構ハードな行為でした。痛いのなんのって...でも3時間弱って、早いんだって。あたしも驚き。
「里ちゃん、すごいね〜あたしなんて帝王切開だったのに〜」
はいはい、あたしは安産型ですよ。
へへへ、男の子だよ?やったね、天野さんに似るといいなぁ...
けれども、産んだときからの真美子さんの可愛がりようったら...一応孫だよ、孫?なのにまるで自分の息子のようにネコっかわいがり。だってね、可愛いんだって、マジで。
あの天野さんの子だよ?あたしの遺伝子は無視してくれちゃって、顔かたちの判る頃には、しっかりつり目。
うんうん、いいなぁ〜お母さん期待しちゃうよ?
「里ちゃん、叔母と甥は結婚できないんだっけ?そしたら、ず〜〜っと一緒にいれるのにぃ〜」
それって、まさか下の娘の未美(ミミ)と結婚させるつもりだったの?
「出来ないはずだよ。従兄弟同士ならOKだったんだけど、惜しかったね〜」
笑い声も絶えない、いい家だ。
あの時は邪魔になるからって出たけど、こうやって帰ってこれる我が家があってよかった。これも真美子さんのおかげ。のほほんとしてるけど、優しいんだから...
だから、あたしは幸せだよ?

back  next

HOMEアイドル小説目次フェイクTOP