step3

自分よりも小柄な真央を何とか抱き上げて、ベッドルームに連れていく。
シーツの上の真央は剛史をじっと見つめている。
「真央を貰うてええやろ?」
「あたしを...貰う...?」
「ああ、そうや、めちゃくちゃ真央が欲しいねん。真央は俺が嫌いか?」
「嫌いじゃないよ...」
「俺は真央が好きや、真央からもその言葉が聞きたいねんけど?」
「...うん、好き。あたしも剛史くんのこと好き...」
「だったら、ええかなぁ、真央のこと、俺のモノにしても...」
「...いいよ。」
ぼーっとした真央だから、テンションは上がらないけど、OK貰ってやめるのは男ではないと剛史は真央のドレスを脱がせにかかる。
女を抱くのは慣れてはいる...自分の意志でも、そうで無くても。そんな世界に剛史は居た。だからこそ、一人のただの男として真央を抱けることに無償の喜びを感じていた。彼女を作る時でも慎重にならなければ、別れた後にゴシップ記事に売られる可能性だってある。売名が目的で近づいてくる同業者だって...そんななかで、こんなにも自分を無防備に晒せることが出来る相手に出会えたことに感謝する剛史だった。

何よりも腕の中の存在が愛おしい。

「あっ...ぅ...んっ」
真央は混乱した頭で必死に考えていた。
剛史と抱き合い、その優しい愛撫を身体に受けながら、どこかで駄目だと自分にブレーキをかけてるのがわかった。
(こんなにも剛史くんのことが好きなのに...なぜ?)
隣に住んでいた剛史と出会ってから、なんども二人で過ごした。彼の醸し出す穏やかな時間が大好きだった。
その剛史に好きだと言われて、何度もキスをされて...
目線が合うと優しく触れてくる唇があった。そのくすぐったさは普段あまり感情的にならない真央を十分動揺させていた。自分の中にこみ上げてくる気持ち。ソレは紛れもなく剛史のことが好きだという気持ち。
なのにソレを口にしようとする度に胸の奥がざわめいた。何かとてつもなく恐ろしいことを思い出しそうで怖くなってしまう真央だった。
(なんでだろう...あたしは剛史くんのことが好きになっただけなのに。)
誰かのことをこんなに好きになるなんて、真央には初めてのことだったのだ。


「はっ...つ、剛史くん...」
「真央...真央、可愛いな...なんもか、もう、ちっちゃくって、どこもかしこも、めちゃくちゃ可愛い...」
そう囁かれて、恥ずかしさで身体が震える。真央はただただその恥ずかしさを堪えていた。けれども、なんども胸の頂を吸われ、体中に愛撫の華を咲かされ、押し開かれた脚の付け根にキスされた頃には、息も上がり、もうなにもしゃべれないほどだった。
誰かに触れられるのは怖かった。
20になるこの年まで男性と付き合ったことも無かったくらいだ。どうして彼のことは怖くなくて、なにをされても平気だと思えるのかは真央にもよくわからなかったけれども、きっとこれが好きという感情なのだと理解していた。
「真央、ええか?入るで...」
耳元で剛史がそう言って真央の身体の中心に熱くなった自分自身を押しつけたとき、彼女の身体がびくりと震え固まった。
「いや...怖い...」
「大丈夫や、怖ないって...優しくするから、な?真央...」
「やっ、怖いの、苦しいの...」
「ほな、やめとくか?俺は真央がいややったら、なんもせえへんよ。」
「判らないけど、すごく苦しいけど...やめないで...」
剛史が望むことをしたかった。おぼろげな意識の中で、真央はそれだけを望んでいた。だけども、そうすることによって、何かが壊れそうで、その不安が自分を押しつぶしそうで怖かったのだ。
「わかった、力抜くんやで...」
優しく、これ以上ないほどゆっくりと剛史が真央の中に入り込んだとき、少し痛みは感じたモノの、そんなに仰臥するほどのモノでもなかった。剛史と一つになれたことがとても嬉しくて、思わず流した涙を剛史の唇がそっとぬぐってくれるその優しさに、真央は嬉しいはずなのに不安でたまらない気持ちを目の前の愛しい男にすがりつくことによって補おうとしていた。下半身から沸き上がってくるしびれるような快感、目の前の剛史の表情は何かを堪えるように辛そうだったが、真央が見てることに気がつくとすぐさま優しく微笑んでキスを落としてくれる。
幸せなはずなのに、何かが引っかかっている。それが蓋を開けて出てきてしまいそうで、真央は怖くなって身体を震わせる。その刺激に耐えられなくなった剛史が大きく動き始めた。
「真央...俺もう...あかんっ...真央、ちょっとキツクするで?ええか?」
切なげに問われて、真央も息切れ切れに頷くと激しく揺さぶられた。
「真央っ、すきや...ほんまに好きなんやっ...」
「あたしも...好き...ああっ!!」
追いつめられていく感覚と共に意識がすり替わっていく。まるで防音壁の中に入り込んだような感覚が真央に襲いかかる。
「いやっ、怖いっ、あ、あたし、いやぁぁぁぁっ!」
身体をのけぞらせて真央は昇り詰めたと同時に気を失ったようだった。。
「俺...もう...くっ!」
剛史の背がびくんと反り返り、最後の律動を終えるとそのまま真央の上に沈んでいった。


剛史は真央の暖かな身体を抱きしめながら、天上を見つめていた。自分の部屋と同じその様子に一瞬家に帰ってきたような気にもなるが、見渡せば真央のイメージ通り柔らかいカラーでまとめられた同じマンションで有りながら微妙に違う。
(真央は初めてやなかった...)
別段そんなことにこだわるつもりはない。今まで何人も知っているのは自分の方だ。
初めてではない割に愛撫されることになれない身体の反応、剛史が入り込んだときも、真央は少し震えていた。入り込んだ後もすごくおかしいほど脅えていた。なのに止まれなったのは剛史だ。
(そんなんかまへん。俺は真央と一緒にいれたらそれでええんや。)
セックスなんて繋がるための手段でしかない。
間に愛情が存在しな場合は、ただの快楽を得るための手段だ。剛史が本当に繋がりたいのは真央の心だった。いつだって夢見るようにぼうっとした視線を漂わせる真央。ヴァイオリンを弾いているときの真央は、本当にどこか違う世界で生きているようで、呼吸さえしていないのではないかと思うほど儚い。そんな真央を現世にとどめておけるなら、何度でも抱くだろう。リアルな温もりを感じていれば真央を自分の物に出来る気がした。

        まるでガラス細工のよう 君の笑顔が儚く映る
        抱きしめたら壊れてしまいそうだよ
        透明な世界の向こう 君は遠ざかる
        どうすれば 愛は伝わるのだろう?
        どうすれば 心繋げるのだろう?
        ガラス仕立ての君を 壊したくない
        もっと 永遠に 愛し続けたい
        グラスファイバーの様に  しなやかに強く
        何にも負けぬよう 君を守りたい

先月出したシングルの歌詞(フレーズ)が頭に浮かぶ。
そう、これは剛史が真央を想って書いた詩だった。
「真央...」
真央の滑らかな肌を引き寄せもう一度抱きしめる。
離したくない、そう願って、シーツの暖かさに埋もれて共に眠った。



(ん?ヴァイオリン...)
朝にはまだ早い薄明るい部屋の中で真央が静かにヴァイオリンを弾いていた。
完全防音のこのマンションでは、夜中にいくら音を出しても誰からも苦情は来ない。
「真央?」
隣にいない真央の温もりが寂しく、剛史はすぐに下着を着けて部屋の中央に歩み寄った。
ヴァイオリンを弾く真央の目は虚ろで、何も見てはいなかった。
「真央、どないしたんや?まだ早いで...」
近寄っても気がつかない。剛史は部屋の明かりを付けて、再び呼んだ。
「真央!」
ぴくりと動きが止まる。ゆっくりと降ろされた腕。
「...剛史...くん...」
焦点の合わない瞳が剛史を透かしてどこか遠くを見ているような気がした。
「どないしたんや、真央。」
「あたし...きゃっ!」
自分を見つめ直して、キャミソールとショーツの下着姿だったことに気がついたらしい。
「なに恥ずかしがってるん?もうそんなん照れんでもええやんか。」
全部知ってるのにと、剛史は真央を抱きしめようとその素肌に手をかけた。
「やっ、恥ずかしい!どうしてあたしこんな恰好で...剛史くんも、ふ、服ぐらい着て下さい!」
真央は身体を抱え込んで床に座り込んで叫んでいた。
「何言うてるねん、オレらは昨日...」
あんなに愛し合ったのに。そんな台詞、ドラマでも恥ずかしいけど、思わずそう言いそうになった。
「いくら友達同士でも、よ、よくないと思います...こ、こんな恰好で、いるのって...」
え?なんて...友達?昨日、二人は身体で繋がったはずなのに...?
「真央、どないしたんや、オレらきのう、一緒に寝たんやで?」
「うそっ...あたし、昨日、クリスマスプレゼント貰って、ヴァイオリン弾いて...それから...」
真央の動きが止まった。
「覚えてないの...あたし、覚えてない!」

同じだ。
あの時と同じ...12歳の時のクリスマスと、同じ...