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My Prince Your Princess 〜普段着の王子様〜

セカンドバージョン 3


「ナツキ、今日も作戦会議やっ!」
毎晩作戦会議という題目で行われる宴会...
ねえさん達は、真剣に考えてくれてるのかどうか、あやしいんだけど、それでも一人にならずに済むから嬉しかった。
どうせ王子とは逢えないし、そうなれば、一人で部屋にいるのって無性に寂しいんだよね...

ふたりで居る暖かさを覚えてしまったから。

けど、その会場があたしの部屋って...
「ここが一番防音設備とセキュリティがしっかりしてるんだよね。」
「そそ、あんたが劇団の誰かと仲良くなる振りをするとしても、あたしらがココに来てるほうがそう言う状況作りやすいしね。」
リンダ団長とマコねえさんが部屋を見回してご機嫌だ。お酒もかなり入ってる。
「え、そんな状況って、やっぱりつくるんですか??」
姉さん達の言葉に驚く。だって、そうならないように、宴会もとい会議をしてるんじゃなかったんですか?
「敵も味方も欺かなくっちゃね。けどさ、うちの劇団にナツキの相手出来るような男いたっけ??」
しーんとなる。要するに、顔も名前も売れた男優なんて、うちの劇団にはほとんど居ないんだよね。
「ん〜誰か客演を呼ぶか?」
「それしかないね。」
って、相手を決めるんじゃないでしょう??
「ねえさん、あたし、ヤですよ?そんな、他にオトコ出来た振りするとか...」
「まあ、あんたにはムリだわね。」
「なあ、ちょっと待ってくれよ。」
後方から低い声で声がかかる。
「オレを忘れてない?」
そう言って立ち上がったのは、細身でがりがり、えらの張った個性的な顔立ちのうちの劇団唯一のTVで活躍中の男優、花本さん。
「あんた...」
「団長のオトコの癖になに言ってるの?」
団長に睨まれ、マコ姉さんに一喝されてすぐにがっくりと座り込んだ。籍こそ入れてないけれども、花本さんと団長は長年同居している夫婦同然の仲だったりする。
「不倫かぁ...」
あたしがそう口にすると、『そうそう』と嬉しそうに立ち上がった花本さんが、団長にどつかれた。
「どっちにしても、ナツキには色気、ないよなぁ?」
判ってますよ、そんなこと...
花本さんがどつかれたまんまの体勢で腕組んであたしの方を見てしみじみと口にした。確かに団長はグラマーですよ?年増の色気もあるし、それが団長の強い個性とメガトン級の体型とマッチして売れてるんじゃないですか?マコねえさんもスリムだけど、でてるとこでてるし、何よりもそのおちゃめさと言うか柄の悪さで、男性芸能人とも仲がいい。ある意味、性別を超えているけれども。
それに比べると、あたしって子供っぽいと言うか、色気のなさは別にしたとしても、人としても周りから子供扱いされていたような気がする。だから、余計に大人としても、女としても自覚がないと、散々王子に責められた。そんなあたしがいいって言うカレの方がおかしいんだけど。
「少年、だよな?そうやってると。」
ジーンズで胡座をかいて地べたに座っている。上にはTシャツとチェックのシャツ。どれもメンズのSサイズだったりする。
「それがナツキの魅力だけど、ねえ?」
「笑い取ってるときはさすがに品はないしねぇ?」
ねえさん達に言われたくないです!!品のない芸仕込んだのはだれですか???ねえさん達だって、口に出来ないような芸をおもちじゃないですか?
劇団の宴会打ち上げなんてエグイぐらいだから。ある意味、劇団員は団長や幹部陣の全てを知っている(見ている)と言ってもいいほどだ。
「色気、だせばいいんでしょうか?」
「色気だけ出してもなぁ...変身でもして、生まれ変わるとかしないとなぁ...あっ!」
「なんなんですか、団長?」
「ナツキが変わればいいんだよ、な?」
「はぁ?」
何かを思いついた団長は、マコねえさんを巻き込んで、嬉しそうに相談をはじめた。残されたあたしと花本さんは顔を見合わせて苦笑いをした。
だって、劇団をここまで盛り上げたのは団長の発想力と行動力なのだから。



「話はつけてるから」
1週間後、団長にそう言われて、バラエティ番組<金曜の奥さん>の打ち合わせに参加した。
「お、来たな。話はリンダさんから聞いてるから。」
そういっていたずらっ子のようにニヤニヤ笑うのは天野さんだ。
「あの、あたし詳細聞かされてないんですけれども...」
「ああ、いいんだよ。あんたは立てられたスケジュール通りに動いてくれれば。」
「はあ...」
さっさとスタッフの所へ行ってしまう天野さんの背中を寂しく見つめていた。
不安、だ...レギュラー入りしたのはいいけれども、どうやらコメンテーターとしてではなく、体験レポーターみたいな物らしい。
「そんな顔してないで、一応あたしがスタッフと一緒に行くから、ね?」
「さとりさぁ〜ん!」
ヘアメーク、スタイリストの彼女が声をかけてくれた。あ〜優しい笑顔に癒されるなぁ。天野さんもこの人のこういうとこに惹かれたのかなって思う。しゃきしゃきもしてるし、はっきりした言動だけど、笑顔の底に、受け入れてくれるって言うか、笑って全部許してくれそうなクッションみたいな柔らかさのある人。
よし、取りあえず誰か知った人がいれば心強いはずだ!


「第一回は『宝山塚への道』これはマジでやってもらうよ。許可取るの大変だったんだからね。まずは一般生徒と一緒に練習、それから元宝山塚ジェンヌ、男役の弾ミレイの特訓だ。一緒にレッスンを受けるのは、金本真子と藤沢ナツキの爆笑本舗の劇団員2名。スタッフはカメラ1台大山と音声笠井、スタイリストに水城と、現場にADの木暮。第弐弾も用意してあるからそのつもりでな。」
なんと第2弾は『ゲイバーへの道』だそうだ。
あはは、これをあたしとねえさんでやるのね?


『ナツキ、元気か?』
「うん、そっちは?」
『普通に仕事しながら映画の撮影やから、すんげえ忙しい。今度天野さんのバラエティにでるんやって?』
「そうやよ、体験レポーターって言うか、チャレンジャーって感じやな。」
久しぶりに王子との電話が繋がった。メールが来てたので、空いた時間に返事したら即かかってきた。ここは控え室なんだけどね。向こうは撮りの最中の空き時間らしい。
『オレは寝てることになってるんや』
そう言ってホテルの部屋からかけてきてくれてるんだって。
だけど互いに距離を置いたような会話になってしまう。だってもう2ヶ月以上は逢ってもないし、電話だって1ヶ月ぶり。
普通だったらこのまま消滅してるよね?芸能人同士、まともに逢えなくて、仕事ですれ違ってうまくいかなくなることが大半だって言う。それでも一緒にいたくって、ムリしてスキャンダルになったりするし、それが厭で、さっさと入籍して、やっぱり続かなくて別れたり...世間一般よりも継続率が低いのは、この特殊な環境のせいもあるよね?
『ナツキ、変わったことはあらへんか?』
「べ、別にあらへん...レギュラー番組も増えたし、順調やよ?」
『そっか、ならいいんや。』
「あ、そろそろ用意せんとあかんねん...」
『そうか、ほなまたな。』
「うん」
切る前に耳元で囁くような王子の声がはっきりとあたしの名前を呼んだ。
『ナツキ...好きやで。逢えんからゆうて、オレのこと忘れて浮気すんなや?』
ドキッとする言葉。浮気しなきゃいけないんだけど、その相手が居なくて今のところ却下になった恋人が出来た振りはお蔵入りになりそうなんだけど、あの人がそのまま黙っていないよね?
「あ、あた...し、も...」
『ちゃんとゆうてくれへんのか?』
そう言われても、電話で、こんな楽屋で照れるやないの!
「好き...やから、信じてて?」
『ああ、わかっとる』

信じてて、あたしにどんな噂が出ても、あたしがどんな変化を遂げても...

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