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My Prince Your Princess 〜普段着の王子様〜

セカンドバージョン 5


携帯にでたさとりさんの様子がちょっと変だった。
『あ、ごめんなさい...もうっ、ちょっとはなして!っとごめんね、なに?ナツキちゃん。』
「えっと、衣装のことでミオさんが話したいそうなんですけど...もしかして今お取り込み中ですか??」
『いいのよ、あたしの今の仕事はそっちなんだから。明日はなんとか衣装探して持って行くつもりだけど、なにっ...っあ、』
声が高くなって、一種雑音がはいる。これは...まさか?
「あの、もしかしてそこに、いらっしゃいます?」
『え?う、うん...ごめんね。あ、あした歌番で会うけど、伝言あるか聞けって、ウチのが...』
ウチの!!さとりさん、天野さんのことそう言ってるの?まあ、名前とか言えないし、子供まで居たらカレシって言う言い方しないだろうしね。
「あ、ありがとうございます...あの、じゃあ、『何とかやってるから』って、それと『放送絶対見て』って...」
それは天野さんを通して晃一くんへのメッセージだった。あたしからも言うけど、そう伝えて欲しいと思った。天野さんもしっかりいっちょ噛みなんだし。
『わかったって、で、衣装の件ってなあに?』
「あ、かわります。」
ミオさんと変わるといろいろと明日から店で着る衣装の話とか注文し始めていた。取りあえず今日までは借り物着てたんだけど、やっぱりちょっとサイズが大きいんだよね。団長も規格外で、合うのは花本さんぐらいで。
「じゃあ、おねがいね。」
ミオさんは携帯を閉じると、あたしに差し出した。
「あんた襲うより、女に磨きかける方が楽しそう。でもね、」
その指先がすーっとあたしの首筋に伸びた。
「あっ...きゃっ!」
声が漏れる、あたしじゃないような、可愛らしい声。
「あんたの男には悪いけど、そういうとこ、さらけ出してもらわないといけないわね。色気、だすためにね。」
「ミ、ミオさん??」

最終日、用意された衣装を着てから、あたしはミオさんにイメージトレーニングをさせられた。
「ね、目を閉じて、好きな男に身体触られてるところ、想像してご覧なさい?」
言われた通り目を閉じている。
王子があたしに近づいてくる...その手があたしの髪に触れて、首筋を撫でて、そのまま引き寄せられてキスされる。
その唇はあたしの首筋を伝って、ない胸の先を狙って服の下に入り込んだ指が...わぁ、だめ、身体が熱くなる!
「ふっ...ん」
「はい、いいわよ。じゃあ、化粧するから、ずーっとカレの事考えてるのよ?」
メイクはさとりさんがするんだけど、ミオさんが横からこうしてってアドバイスを入れている。先日の宝山塚メイクはそっち専門のヒトにやってもらったんだけど、今回は普通にさとりさんにやってもらってた。

「え??これがあたし??」
鏡の中のあたしは別人だった。少年じゃない、女の顔したあたしが潤んだ目して立っている。細い紐でつられたキャミソール、短い丈のスカート、細いヒールのミュール。
重ねられた睫毛、濡れたようなつやつやの唇は半開きにしなさいと言われた。ロングのウェーブヘアの鬘をかぶり、まるで別人...
「そ、いいわよ、あとは立ち振る舞い。いい?絶えずカレの手が腰に回ってると思って立って。」
「は、はい!」
隣に王子が居るって、想像するだけで恥ずかしくなる。
「カレに顎を持ち上げられてるって、そう、その表情よ?いい?それから、歩くときは、カレのモノを股にはさんで挿んでるような気持ちで!」
「ええ???そ、そんな!!」
出来ませんって、そんなの...王子のが??って...
「やぁ...っ」
だめ、想像しただけで、あたしは思わず座り込んでしまった。想像しただけで恥ずかしくて、立っていられなかった。ただでさえ、今日の衣装は結構ミニだし、胸元開いてるし、寄せるためにない胸に上げ底して、ガムテープで寄せてるし??下着も信じられないくらい色っぽいのを履けって言われたし...
「ちょっと刺激つよかったかしら?」
「ミオさん、ナツキさんに何か飲ませました??」
さとりさんがあたしを抱き起こしながら、ミオさんに聞いていた。
なにか?そういえば、女らしくなるサプリメントだって、さっき錠剤を...それからもう、身体が熱くって、ぼーっとして...
「ちょっとね、その気になるクスリを...ヤバかったかしら?」
ええ??そんなもの飲ませてたの??ヤバイじゃない!ただでさえ他の男の居る前では油断するなとか、そう言う顔見せるなとか、王子にも散々言われてるのに...
「これは、ちょっと...普段のナツキちゃんのイメージがイメージだから、すごいわね。」
うーん、と、さとりさんが唸った。


「ええっ!!ナツキ??」
撮影のために入ってきた団長と花本さんが驚いてる。
「ベ、別人だ...」
「なんか、いろっぺー」
花本さんがまた団長につねりあげられてる...
写真を撮影した後、お店に出てショーのお手伝いをして、撮影は終わる。

あとは放送を待つだけ。

着替えようかと控え室に戻ろうとすると、ミオさんに声をかけられた。
「お疲れさん。ねえ、外で飲まない?」
「ミオさん、え?ふたりでですか??」
にっこりと笑ってるけど、昨日最初がアレだったし、どうしようかと悩んでいた。
「なんなら、あたしの部屋にいらっしゃいよ。身体熱いんでしょう?ちゃんと慰めてあげるよ。」
ぼーっとした耳元に、ミオさんの声がやけに低い。
え?腰に来る?身体が...震えてない?ああ、まだ熱い...
「すみません、この子この後まだ仕事あるんで着替えますので!」
さとりさんの声がして、ほっとした。あのままだと何だかヤバかった気がする。
「ナツキちゃん、気をつけないと...」
「え?」
「あなた狙われてたんでしょ?ミオさんに。」
「ま、まさか...」
「さっきの、あれえっちのお誘いだって判ってなかったの?」
嘘っ!昨日のも全部冗談だったんじゃ??
「昨日の衣装の注文の出し方や、メイクのアドバイスも、全部あなたを女として見てるものだったのよ。普通、あの手の人は女の人に対して友情やライバル心とかは持っても、あそこまで色気引き出すためにはやらないわよ。特に媚薬なんか、ね?」
「は、はぁ...そ、そうだったんですか...」
そんな人と1週間も寝起きを共にしてたって言うの??
うう、また王子におこられちゃうよ...

別室で急ぎ鬘を変え、衣装を変えた。あのままじゃちょっと派手すぎるからだろうか?今度のは、さっきのケバいぐらいの衣装と違って、清楚なイメージのワンピースとストレートの長い髪は何だかまた違う意味で別人。
着替え終わって外に出ると、団長と花本さんも一緒だった。ふたりはもう普段着に着替えている。
「あの、どうするんですか??もう終わったんじゃ...」
訳もわからず、されるがままのあたしを店から連れ出すと、3人は外に待っていた車にあたしを押し込んだ。
「じゃあ、おねがいします!」
「おう」
アレ?この車...
低い車体のシーマ、天野さんの愛車じゃないの??
「よぉ、その恰好でやってたのか??」
「あ、は、いいえ...」
運転席のサングラスの男の人がおもしろそうに振り返る。あたしのあとからさとりさんが後部座席に乗り込んできた。花本さんと団長は『頑張って』と手を振っている。
「あの、」
「別人だな。」
「でしょ?」
天野さんから見てもそうらしい。さとりさんが嬉しそうにメイクを直していた。
「あの、ほんとにどこ行くんですか??」
「おまえの王子様のとこに決まってるだろ?」
にやっと笑った顔がバックミラー越しに見えた。うう、怖いんですけど??さとりさんは慣れてるからか、平気な顔してるけれども。
「うー、さとりさぁん」
不安げに寄り添うとよしよしされる。なんせあのサプリメントを飲んでからは情緒不安定だし、身体も熱いし、とにかく変なのだ。
「大丈夫だから、ね?」
その言葉に、取りあえず安心して行く先を任せた。

王子のとこ、つまりは晃一くんの所?
でも今は逢ってはいけないって、そう言われてるのに、いいのかな?
「大丈夫だって、今のおまえ見ても、誰もお笑い芸人の森沢ナツキには見えないって。」
そんなこと言われても、実感ないし...
「しかし、よくこんなミエミエちゅうか、こてこての手使うよな、オタクの団長も。」
「そうなんですか?」
あたしはまだよくわかってなかった。だって、今から王子に逢うってコトすら知らされてなかったから...
「オイ、もうちょっとで着くぞ。」
って、なにここ??
「まずはここから、らしいぞ?」
う、海ですか??
「ほれ、向こうに見えてるだろ?四駆のジープ、あれが晃一の車だ。キレイに歩いていって、近くに寄ったら一度立ち止まる。それから駆けだして胸に飛び込まなきゃなんねーらしいぞ、おまえ。」
「うわぁ...くさっ」
「俺もそう思う」
って、そこで天野さんと同じ意見にならなくてもいいと思う。やるのはあたしなんだし...
「もう、そんな冷めた風じゃダメでしょ?ナツキちゃん、久しぶりに逢うんでしょ?気にせず、甘えてらっしゃい。」
優しいさとりさんの後押しで、あたし車を降りると、しばらくの距離を歩いた。
車のドアにもたれて、所在なく海を見てる王子が居た。
「晃一くん...」
小さく声かけたつもりだったのに、一言で彼は振り向いてくれた。
かけていたサングラスを外してあたしの方をじっと見る。
「久しぶり、見違えたっていうか、別人だな。」
くすくすと笑ってるけど、その目は優しくて。
「あたしじゃないみたい、やろ?」
「いや、同じや。ナツキはナツキや」
王子の腕が開いて、あたしはその胸に向かって飛び込む。
「お、今日はなかなか積極的?」
「あほ」
抱きしめてくれるその腕が温かくって、その感触も、匂いも、全部王子ので...もう、ずっと逢ってなかった分、すごく懐かしくて、恋しかった。
「あぁ、ナツキや...見た目なんてどうでもええねんけど、オレナツキが足らんで、死にそうやった...」
「ようゆうわ、仕事は仕事で、のめり込んどったんやろ?」
「まあ、な...けど、一人の時間がな、寂しかった。電話もろくに出来んかったやろ?泊まり込んでる間とか...MARIAの智紀に遊んでもろたりしてた。おまえは、なんもなかったか?」
何もなかった、になるのかな?一応...
「う、うん...」
「けど、その顔、」
そないにオレが欲しいの?
耳元で囁かれた声に、びくりとからだが震える。
「っあ...」
最初っから火照って、おかしくなった身体には、その声は凶器だよ?
「おい、マジで、おかしなるくらい、欲しいのか?」
「ん...ちがうの、女らしく色気だして収録がうまくいくようにって、なんかサプリメントみたいなの飲まされたんだけど、それ、媚薬だったらしくって...」
「なんや、それ?誰に飲まされたんや?」
「ミオさんって、ゲイバーのヒトだけど...」
「男か?」
「ちがうよ!身体は男でも、心は女だって、」
「女が女に媚薬飲ますかよ!まさか、収録終わった後、そいつに誘われてないやろな?」
うう、なんでわかるのよぉ!
「えっと、それは...」
「誘われたんやな?」
「あ...う、まー、少し...」
「久しぶりやから、優しくしてやろって、思っとったのに...あほナツキ!」
「え?んん!!」
いきなり、キス、する?会話の最中で、外だし、まだ向こうに天野さんいるだろうに。
でも、何か変。このキス...
いつもならキスしながら、その...イロイロなのに、一定方向から動かない??
「もうそろそろいいかな?」
「へっ?」
あっさりと離れる王子にあたしは戸惑う。
「ま、こんなとこで本気になっとれんやろ?行くぞ。」
「え?どこへ?」
「オレの部屋。」

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素材:CoCo*