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My Prince Your Princess 〜普段着の王子様〜


セカンドバージョン 7


しばらくするとインターフォンが鳴って、王子がエントランスの鍵を開けていた。その後ドアの所まで上がってきたさとりさんを確認して中に招き入れた。

「じゃあ、ちょっと化粧直しさせてね?」
そういってリビングであたしのメイクを一通り直して、最後に鬘をきれいに梳かしなおして着けてくれた。
「さ、できあがり。」
「ありがとうございます。」
再びメイクボックスに道具を入れ直してるさとりさんをじっと見る。
さっきから気になってしょうがなかった。だって、さとりさんの首筋に...
「あの、さとりさん、首のとこ...」
「えっ??まさか!」
急いで鏡を覗き込んで、さとりさん怒りだした。
「もう、あのばかっ!」
原因はただ一つ。<待ち時間>の間に天野さんがつけた赤い印のキスマーク。
「あ、あの、天野さんは、今どこに?」
「地下の駐車場よ。来客用の所に停めさせてもらってるんだけど?」
「そんなとこで...」
つい口から漏れた言葉に、さとりさんは真っ赤になってしまった。
も、もしかしなくても、し、してたの??く、車の中で???そりゃ待たせたかもしれないけど、なにも車の中でしなくっても...
「あの人は...余所の駐車場で困ったコトしないでくださいって、オレからゆっときますね。」
気をつかってコーヒーを入れてきた王子がにっこりと笑ってカップをあたし達に差し出す。目上の人の前だと標準語にもなるんだね。
「今回のことに協力戴いたのは嬉しいけど、あの人は無茶しすぎちがいますか?」
あきれ顔で言うけど、王子あなたは言えないようなコトしてませんか?
「確かにね、あたしが言っても聞かないけど、今回はあたしが手伝いたいって言ったからなの。」
「そうだったんですか...ほんまに感謝してます。オレらまだこれからやのに、こんなとこでダメにしとうないんです。ありがとうございます。」
王子は座ったままだったけど、深々と頭を下げた。
「いいのよ、そんな...あたしはまだ恵まれてのかも知れないわね。誰にも気づかれてなかったから。ううん、気がつかれたとしても、事務所側には無害で便利な女で処理されてたのかも知れないわね。変な女に掴まってイメージダウン起こさせるより、適当に側にいて身の回りの面倒全部する女だもの、あたしって...だけど、イメージを損なうからって理由で別れさそうとするのは許さないわ。あたしもそう思われてたらって考えると怖くなる...だから余計にナツキちゃんを応援してあげたいって思ったの。」
「さとりさん...」
いつも優しい彼女が、日の当たらない身でどれほど苦しんでるのか、辛い目に遭ってるとかなんて想像も出来ない。そして、本気な分だけ天野さんもそれ辛いと感じているはずだ。王子もたぶんあたしに対してそんな気持ちを持ってくれてる、と思う。
「さてと、じゃあ、あたしは先に帰るわね。」
「駐車場まで行きます。」
王子はそう言って、ふたりでさとりさんを下まで送り、ついでに天野さんにお礼を言った。
「ありがとうございます。」
「ま、おもしろそうだったしな。それに...オレは里理のお願いには弱いんだ。苦労させてるから...おまえは堂々としてやれよ。」
「はい」
運転席から顔を見せた天野さんはじゃあと言い残して駐車場から出て行った。
「それじゃあ、オレらもいこか。」
「え?どこへ??」
「外」
「ダメだよ!見つかるじゃない!!」
いくら真夜中でも、最近は暗視カメラや赤外線カメラだなんてすごい文明の利器があるんだよ?
「見つからなきゃ意味ないだろ?」
そう言って徒歩でマンションを出て、それからコンビニで買い物して、また部屋に戻った。
出口では、お約束のフラッシュ。そのあとも店の中とかで、かなり見られてたと思う。


「もう、どうするの??もう気が気じゃなかったんだけど!」
歩いてても、コンビニに入っても、俯きがちにしていたとしても王子はやたらと視線集めてる。これって恰好のスクープじゃない?今は携帯カメラで写真撮って売り込んでくる人も居るらしいのに...
「何だ?気が付いてなかったんか?写真撮らせてるんや。」
「でも!!」
「今は、誰もその写真を見てもナツキやなんて気がつかへんよ。問題はナツキの番組が放送されてからや。」
「そんな...」
「これ全部おたくの団長が言い出したんやで?もう少し付き合おうや。ウチの連中『あっ』て言わさんとあかんからな。」
放送があったらあたしってバレる?そうしたらまた会ってたって責められるんじゃないの?そんなんでどうする気なのよ...
「さて、リンダさんが迎えに来るまで時間あるんやけど。今度は壊されてみる?さっきはメイク直して貰えるとか知らんかったから、かなり手加減したんやで?せやのに、おまえクスリ効き過ぎやろ?今度は、思いっきりやらせて貰うからな。」
「はい?」
ニヤニヤ笑う王子は、そのままあたしをバスルームに連れていき、メイクを全部取らせると(さすが芸能人、男なのにメイク落とし持ってるよ...)あたしを湯船に連れ込んだ。

「やっぱりオレはまんまのナツキがええ...この子どもみたいな顔も、つるつるの素肌も、普通にピンク色の唇も、全部そのまんまがいいんや。」
「はぁっ...やぁ、もう...」
ベッドに戻ってもその手はあたしから離れない。もう媚薬の効き目はとうに切れてるのに、あたしの身体も言うことを聞いてくれないのはなぜ?
「ナツキ、可哀想に...覚えてしもたんやな。そうやって自分で気持ちよくする方法。ええよ、自分で動くか?」
焦らすような王子の責めに、いつの間にかあたしは彼にあわせて腰を動かしていたのだった。
「やっ、あ、あたし...」
恥ずかしい、でも気持ちいい。身体はいくらでも暴走していく。
クスリのせいとかそんなんじゃない。逢えない間、寂しかったのはあたしだけじゃなかった。あたしの身体も、王子を欲しくて欲しくて、たまらなくなっていたんだ。
「かまへん、一緒に気持ちようなろ?ナツキが欲しがってくれるんは無茶苦茶嬉しい。逢えへんかった間、オレがどれだけ辛かった...けど、オレだけやなかった思たら、もう止まらんよ?もっとナツキを責め上げて、もっとナツキをよがらして、オレを欲しがらせたいんや。ナツキが、ええ声あげて、イク顔が見たいんや、何度でも...ナツキっ!」
「あっ...晃一くんに、抱かれたかった...逢えんかってあたしも寂しかったんやもん。次逢えるまで、忘れられんようにして?」
「それは、壊されてもええってことか?」
ぐいっと、王子はあたしの身体を折りたたんですごい恰好をさせた。
「ん...して、」
出口で待機していた王子の高ぶりがずんって、身体の奥に届く。
「んぐっぅ!」
声というよりくぐもった声が出てしまう。
これ、苦しいんだけど、だけど...
「あんっあぁっ、あ、んっ!」
身体が昇りだすとあとはもうとめられなかった。
「ナツキ、ナツキ、このまま、壊して、どこにも行けんようにしてしまいんや!くっ、ナ、ツキ...っ!!」
王子が果てるまで攻め続けられ、あたしは軽く痙攣を起こしたまま、ぐったりしていた。どうやら訳のわからない悲鳴を上げていたらしいけど、記憶がないんだもん。

明け方近く、団長が迎えに来たけど、あたしは起きあがれなかった。
「好きにしてもいいって言ったけどね...ここまでしなくても。」
王子の部屋のリビングであたしを待っていた団長は、ようやく起きあがれたあたしを受け取ると、ため息をついた。
へろへろで腰が立たない、おまけに喘がされて声も出ない。目も虚ろで意識が覚醒しない酷い状態だと思う。
「そう思うんなら、こっそりでもいいですから、定期的にナツキに逢わせてください。何ヶ月逢われへんかったと思てるんです?」
そんな、いかにもしましたって言う言い方しないでよ!
「まあ、そうやな、澤井くんもまだ若いんやしね〜」
団長もそんな意味深な顔して笑わないで...あたし何も反論出来る状態やないんだから!!
「あたしでは代わり出来なさそうやから、都合はつける。うちの社長にスケジュールこっそり送っといて。何とかするから。」
「ありがとうございます、リンダさん。」
にっこりと、こう言うときは王子様スマイルなんだから。



それから数日間はめまぐるしい日が続くのだった。
「でたね」
「でましたね」
「うわぁ〜これ、マジ誰だかワカンネ!」
劇団の事務所っていうか休憩室で、ねえさん達が見てるのは写真週刊誌。ザ・スクープって言って、主に芸能人の特集なんかもする雑誌でJ&Mの事務所が抑えられない雑誌の一つらしい。
TOPにでかでかと掲げられた見出し
<スニーカーズ・澤井晃一に恋人出現??>
その後に続く<モデルか?それとも売り出し前のアイドルか?>
なーんてね。
「あはは、誰もあたしだって思わない?」
「だね、お笑い芸人とは思わんだろうね〜」
こうやって雑誌に出るって、後で聞いた。団長のリンダさんがこの雑誌の編集長でもある冗談社の社長と仲がいいらしい。
しかし...
「キレイだわ」
「自分で言ってんじゃないよっ!」
後ろから頭はたかれる。
「ねえさん〜だって、自分だって思えなくて...」
「まあ、気持ちはわかるけどね。問題は今週放映の<奥金>をみて何人が気づくかだね。」
「まあ、宝山塚のあと、1週開けてゲイバー潜入だからね、気がつくかな?」
「この場合どっちでもいいわけよ。イメージダウンしない相手になってればね。ナツキ、向こうさんからは?」
「何も...でも王子はやっぱり絞られたみたい。相手は本名知らないで突っぱねたらしいんだけど。ある意味安心してるみたい、あたしじゃなかったら。」
あたしとは別れたのかと、かなり聞かれたらしい。王子は『今は逢ってません』とだけ答えたといっていた。

楽屋に入っても、所々でその話は囁かれていた。なんせ相手が謎だと言うのもあるし、元々噂の少なかったスニーカーズに降って湧いたスキャンダルだし。
「いやー相手、美少女だと思うよ?さすが澤井君だね〜」
「うーん、でもこれは一般人じゃないでしょ?でもどこにも該当者が居ないって、すごいねー」
奥様金曜日ですのコメンテーターが騒ぎまくっていた。あたしはそっと楽屋を出てさとりさんを探した。
(天野さんとこかな?)
そう思ってノックすると...
「誰?」
「あ、ナツキです...」
「どうぞ」
中にはいるとあたふたと身支度するさとりさんがいて...可哀想なくらい真っ赤で、女のあたしから見ても滅茶苦茶可愛い。
「あの、あんまり苛めないであげてください。」
「オレのだ、好きにして何が悪い?」
うわぁ〜凶暴...ほんとにバラエティやってるときと違うんだから!じろっと睨んでくるのは邪魔されたからだと思う。
「あの、見ました??」
「ああ、見たぞ。別人に映ってたじゃん?あれ見て判るのは、この間の撮影のメンバーぐらいかな?」
「たぶんそうだと思うわ。ミオさんから問い合わせのメールが来たもの。無視しておいたけど。」
さとりさんが少しだけ呆れた顔を見せた。
「うそ...」
「ちょっと本気はいってたみたい。もう近づいちゃダメよ?いい?」
「は、はい...」
「じゃあ、今日は宝山塚の放送だから、明日は覚悟しとけよ?」
「は?明日ですか?」
「ああ、大変だぞ、明日の方が...」

その意味は本当に明日になってわかった。放送の翌日、あたしじゃなくて、事務所が大変だった。
まず宝山塚への道が放送されると同時に、事務所の電話が鳴り響いたらしい。あたしはまだスタジオにいたので、帰り道に社長に言われて飛んでいった。
『あの男装の麗人は、本当に森沢ナツキなんですか?』
『すごいです!!カッコイイ、ドラマとか出ないんですか??』
もちろんそのあと、正式オファーもあった。ドラマ、舞台、全て男装の麗人役か少年の役で。
宝山塚メイクで地味な顔立ちが華やかに修正され、マコねえさんと踊ったダンスシーン、短いラブシーンは大評判だったようだ。何よりも、メイキングシーンで、変身していく様、レッスンの厳しさ、それに耐える涙が感動を呼び、ねえさんとの関係も感動的に撮されていたようだった。
『森沢ナツキの涙は、女くさくなくてよかった』
っていうのもあったけど...それは喜んでいいのか悪いのか。

「受けた方がいいのかな?この仕事...」
思わず悩んでしまうような内容が山ほど。
「再来週の放送まで待った方がいいと思うよ。」
「そう、ですか...なんか怖いですね、見かけを少し変えただけなのに...こんな。」
あまりの反響に戸惑ってばかりだった。
第二弾は尚更だと言うのに...

そして第二弾放送、世論はもう手がつけられないほど変化して行くだけだった。

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素材:CoCo*