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My Prince Your Princess 〜普段着の王子様〜


セカンドバージョン 9


『電源、切られてるみたいだな...電池切れの可能性もあるが、盗難に間違いないだろうな。そうじゃなくて拾われても悪用の可能性がある。』
翌日、社長に頼んで携帯電話会社に連絡して、全ての機能を停止してもらったけれども...
なんで、あたしの携帯が?荷物を置いていた楽屋に出入り出来たのは劇団員だけだし、仲間を疑うようなことはやっぱりしたくない。
『取りあえず新たに携帯電話購入しておいてくれ。でないと連絡の取りようがない。』
「でも書類とか、部屋にもどらないと...」
『しょうがないな。会社名義で買ってやるから、それしばらくつかえ。』
社長にそう言われて、翌日新機種が送られて来たけど、何も入ってない携帯ではどこにもかけれない。
「とりあえず、電源切っとこう。」
あたしは、今度こそは取られたりしないように、出演中はマネージャーや劇団員に預けてでることにした。


「あれ?あたしの着替え...っていうか、なに、これ...」
貴重品こそは預けていたものの、控え室に散乱してるあたしの荷物。
「嘘でしょう?」
足下の床が抜けてめり込んだような感覚に襲われた。一瞬ふらついたらしく、あたしは隣にいたマコねえさんに支えられていた。
「これは...酷いな。」
劇場側の従業員さんも驚いていた。こんなこと、今までなかったと言う。
調べても取られたモノはほとんどなかったけれども、あたしの下着や普段着までもが切り裂かれていた。
「警察、呼ぶ?」
「ん...でも、公演中だし...」
「今劇場側に言って警備の強化頼んどいた。次の劇場じゃ控え室は鍵のつくとこにするから、とにかく気をつけよう。」
団長は冷静に対応してくれていたけれども、不気味で、怖かった。
「なんか恨まれるようなこと、やった?」
「あたし、ですか?劇団の中にはおらんと思いますけど...」
「ホテルも一人部屋はやめて、必ずあたしかマコに一緒に居させるから。」
地方公演が終わるまであと2週間、あたしはその不安とどう戦えばいいのか考えていた。だけど、姿の見えない攻撃ほど怖いものはない。相手が判っていれば、ちゃんと目標設定して戦い抜くことが出来るのに...


「ナツキ、あんたの王子様に連絡は取った?」
「あ、まだなんです。携帯新しくしたんですけど、連絡先覚えてなくて...」
「ちょっとまって、確か突撃隊の雨村が王子と仲良かったよね?それに知ってるやろ、あんたらのこと。」
最初にふたりでバックれたときに居たし、王子が報告もしてるのでもちろんしってる。
「ナツキの新しいアドレスとナンバー送っとくわ。ちょっとまっとき。」
「ねえさん、さすが!」
そうだ、なにも帰るまで待たなくても、そうゆう手があったんだ!
「感謝しいや、感謝ついでにあたしの男も見つけてえな。」
「ぜ、善処します。」
ほんまにねえさんはこないにいい女やのに...なぜ彼氏が出来ないのか、あたしも不思議だった。

それから数分後、あたしの携帯に電話がかかってきた。
ナンバーだけ。たぶん、王子から!
「も、もしもし!」
『ナツキ、大丈夫なんか??連絡取られへんから、心配したぞ!』
焦った様な声がまくしたてて、よほど心配かけてたのだと実感する。
「だ、大丈夫やて、携帯な、無くしてしもて、それで...」
かちゃりとマコねえさんが部屋の外に出て行く音が聞こえた。
やっぱ聞かれると恥ずかしいもんね、ありがとう、ねえさん!
『聞いた、大丈夫なんか?』
「うん、大丈夫や。ごめんな、遅なって...」
『いや、オレな、ちょうど関西に仕事で来てるんや。明日、逢えへんか?夜、何時でもええ。ナツキも明日大阪に入るんやろ?』
「え?ほんま...」
すごい、偶然でも無茶苦茶嬉しい!!
あ、でも...
「あかん、鬘とか化粧とか、自分で出来ひんし...」
『なんとかならんか?メイクは口紅とかだけで、あとはサングラスとかであかんか?』
「そんな、焦ってどないしたん?」
『すぐ側におるんやったら、逢いたい決まっとるやろ?ただでさえ1週間近く音信不通やったんやからな!!』
それはあたしが悪い訳じゃないんだけど。
「ごめん...」
『いや、心配やったし、メール最初は届いてたのに、途中から届かんようになったから、ホンマに焦った。』
「うん、あたしも、どないしようか思てた。」
『な、明日。メールで場所送るから、そこに来て欲しいんや。』
「え?ホテルやないの...」
『そんなとこ目つけられるやろ。知り合いの...マンションがあるんや、大阪には。自由に使てもええって、鍵ももろてる...そこに来ないか?』
どんな知り合いか、少し気になったけれども、判ったと伝えた。
『ナツキ、はよ逢いたい...逢って...』
最後の言葉が耳に残って、あたしはしばらくぽーっとしてた。部屋に戻ってきたねえさんにどつかれるまで、惚けていたらしい。


翌日、一旦ホテルに入って、明日の打ち合わせと公演の下見リハーサルを終えた後、急遽用意したロングヘヤーの鬘と、お出掛け用にさとりさんに見立ててもらった柔らかい素材のスカートにキャミソールを重ね着して準備した。もちろん化粧も自分でしたと言いたいが、ねえさんに手伝ってもらった。シャメで撮って、さとりさんに送ってやり直すという念の入れようだったけど。
「じゃあ、行ってきます。」
「朝には帰っておいでよ。一緒におったことにしといたるから。」
「ありがとう、ねえさん。」
ホテルって言うのはある意味部屋を出ればどこの誰だか判断しにくいものだと思う。ただ、この恰好は目立つのか、すれ違いざまに人の視線が気になる。
サングラスをかけてるけど、その中の視線は泳ぎまくってる。あたしって、つくづくこういうの向いてないって思う。王子なんか吃驚するくらい堂々と歩いてるもんね。あたしなんか素顔で歩こうもんなら、そこら辺から背中叩かれる...お笑いの宿命だけど。

(ここかな?)
タクシーに住所を告げて降りたったのは小綺麗なマンションの前だった。新築じゃなくて、年数は経ってるみたいだけれどもシンプルで落ち着いた内装の建物だった。
エントランスを抜けて、部屋の前でインターホンを鳴らすと王子がドアを開けてくれた。
「ナツキ...」
引きずり込まれたドアの内側で、そのまま身体を攫われ、王子の腕の中に抱き込まれると、ドアを背に押し当てられたまま唇を塞がれた。
「んんっ...」
まだ鬘も、サングラスもつけたままで、唇には王子の嫌いな口紅が塗られてるのに?
「ん??」
そのまま身体が宙に浮く。キスしたままあたしを抱きかかえようとしてるらしかった。
「や、あたし、重い...」
「どこが?」
唇が離れた途端主張したが一言で却下される。
その細い身体のどこにそんな力があるの?ってほど強い力で抱えられたあたしは、そのまま部屋の奥に入っていく。
王子はダンスで鍛えてるだけあって、意外と筋肉質な身体をしている。脱いだら、あまりの綺麗さにため息が出るほどだ。あの割れた腹筋は思わず触れたくなる。それに信じられないほど体力はあるしで...付き合わされるこっちの身にもなって欲しい。
部屋の奥に向かうときにちらりとキッチンが見えた。人が使ってる気配一つ無い。そのまま入り込んだ部屋も生活感があまりなかった。ソファセットが置いてあっても、何一つ使った痕跡がない。
部屋の空気も少しだけ淀んだ、閉め切っていた部屋独特の匂いもする。
一体誰の部屋なんだろう?
「なんや?」
キョロキョロと見回すあたしを不審に思ったのか、王子が立ち止まって顔を覗き込んでくる。
「え?や...その、この部屋...」
「気になるんか?」
ふっと緩んだ王子の視線が少し漂う。
「オレも長い間この部屋には来てなかった。昔、デビュー前に知り合った人にもらったんや。」
「もらった?」
「ああ、その話をし始めたら、オレはすぐにナツキを抱けんようになる。長い話になるかも知れんし、ナツキがオレのこと嫌いになるかも知れへん。」
「そんな、嫌いになんて...」
なるはずがない。なられたとしても、自分から嫌いになったりするはず無い。それは、不思議とすんなんりと出て来た言葉だった。
「今聞く?それとも後にする?」
いつもの勢いのない王子の示す選択に、あたしは反対に聞き返した。
「晃一くんは?どっちがええの?」
「後に決まっとるやろ?!」
一言で決まってベッドに放り投げられた。




「やっ、はぁ...っん!!」
愛撫もそこそこに、あたしが受け入れられそうだと確認すると、すぐさま王子はあたしの中に入り込んだ。
「ナ、ツキ...っ」
あたしの身体を揺さ振り、激しく腰を打ち込んでくる。
ベッドルームに入ってからの性急さは相変わらずで、そうやって求められることに喜びすら感じてるあたしは、もう彼のモノなんだという実感をひしひしと感じていた。
「あっ、こ、いち...はっ...ん、そこ、だめぇ...」
誰も知らない部屋だから、何かを吹っ切ったように、はしたなく嬌声をあげていた。
「だめとちゃやうやろ、ええんやろ?」
しつこく攻め立てられて、あたしは自分を抑えられないほど感じてしまって、ひたすら喘ぐ。
「いい...の、あっ!も...だ、め...」
「イクのんか?」
「ん、っちゃう...いっちゃう...」
「オレも、っく...」
二人して身体を震わせて快感の頂上を味わって、そのままベッドに沈み込んだ。


しばらくインターバルを開けた後、最初の分だとたっぷり愛撫を加えられ、二度目は懇願させられた。
「どうしてほしいんや?」
そう言われても、実際口に出来ないよ、そんな名称。
なのに、散々焦らされて、ようやくあたしがその名前を口にして
「きてよぉ...!」
泣きながら懇願するまでスルなんて、今日の王子はすごく意地悪だった。
「もう、なんで...」
指一つ動かなくなるほど呼吸を乱したあたしを腕の中に抱き込んで、満足そうな王子を睨むけどあまり意味はないようだ。
「出会う人出会う人に言われるんや。あの子誰やって。オレ誤魔化しては居るけど、下卑たことゆうてくる奴もおってな、なんかオレのナツキが汚されとるみたいで嫌やったんや。ちょっとでも見せとうないし、想像されとうもないから、おまえのこと!」
「けど、それって、あの変装しとるときやん?」
「同じや、オレにとったらどっちもオレのナツキや。もったいない!」
も、もったいないって...どういう意味だろう。
呆れるほど単純な理由であたしは部屋に入っていきなり...されたのだろうか?相変わらず王子の激情の理由にはついて行けない。
「けど、苛めたときのナツキが可愛いんや。そうやってオレを欲しがるナツキが...なんかオレのって感じしてさ。最後もオレの離さんかったやろ?オレも腰抜けそうやったし。」
「もぅ、いやや!そんなこと口にせんとって!!」
自分がしてた反応を思い出して真っ赤になって、王子の胸を叩くけど効果はない。
「けど、ほんまに、今日のナツキは周りとか気にしてないみたいで、ココに連れてきてよかったって思てるんや。ナツキの部屋でも、オレの部屋でも、たぶんホテルでも気になるんやろ?誰かに知られたらアカンと思てるから...」
その通りだった。あたしはいつも必死で声を抑えていた。それでも抑えきれずに居たとは思うけれども、心のどこかで、ずっと、『知られちゃいけない』と思っていたのかも知れない。
だけど、ココに来たときから、誰も知らないところで、誰も知らない自分たちになれた気がしたのだ。
いっそ、普通の男と女として出会っていたら...そう願わなかったことが無いとは言えなかったから。
「ここな、昔、オレに酷いコトした人がくれたんや。」
「え?」
意外な言葉にあたしは思わず身体を起こして王子の顔を覗き込んだ。
(よかった、苦しそうな顔してない。)
あたしは少しだけ安堵してそのまま王子の腕の中に戻って彼の言葉に耳を傾けた。
酷いコトした人、それは男性だったと言う。
「その人は、まあ、普通の人や無くて、最初はオレに酷いことした人やったけど、最終的にはオレと剛史を助けてくれた。そのせいでここらにおれんようになって姿消したんや。その時に好きにつかえ言うてもろたけど、長いこと来たこと無かったし、たまに一人になりたいときに来ても、寝に寄るぐらいで、まともに使たことはなかったんや。誰かが部屋の面倒見取るみたいやけど、出会たことはない。ひどい目には遭うたけど、結果的には早めにデビュー出来たし、もう、恨んでもしゃあないし。」
デビュー前に起きた事件のあらましは全部は教えて貰えなかった。事細かく説明するには、まだ辛いことが多いんだろうと思う。
「けど、オレと剛史の傷は深かった。ナツキも知ってると思うけど、その時のことが原因で、オレはそっち系の男もアカンし、化粧しまくった女も嫌いになった。」
そっち系というのは、男の人でもOKな人だと教わった。
そう言う事だったのだ。王子の負った傷は、その時された酷いことで、でも判っているのは、必死で自分で立ち直ったこと。そして今も残った傷は、どうやらあたしで少しだけ和らいでいるって事。
その真実の方がずっと嬉しかった。だから、そんな衝撃的な話を聞いても、あたしは驚きはしたモノの、王子に対して見方や何かが変わりはしなかった。
顔を埋めてる暖かさも、あたしを抱き込んだ腕の強さも、ずっと同じだから。何よりも、王子は乗り越えてきたんだ。そしてあたしを選んでくれたんだ。
「その人のこと、もう許してるん?」
「そうやな、ここにこうしてナツキ連れてきてる時点でそうかもしれん。それに...過去のことや。オレには、ナツキがおってくれるから、もう怖いモンはない。怖いんはおまえがこの腕の中から居らんようになることや。」
そういって再び抱き込まれて、息苦しくなって暴れた。
「なんや、ムード無いヤツやな。」
「もう!死ぬわっ!息出来ひんやんか!」
悪いといって笑って又抱きすくめてくる。
もう、しゃあないなぁ...
あたしは幸せの絶頂を味わっていた。


ここを出た瞬間、地獄に落とされるとも知らずに...

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