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My Prince Your Princess 〜普段着の王子様〜

「気に入らないな...」
「晃一!」

澤井兄弟の収録の後だった。近くのスタジオで別番組の収録があったので、挨拶がてら覗きに来たのだ。王子の顔を見れるんならそのチャンスはきっちり使わないと。
王子を探していると彼の低い声と、相方の剛史くんの彼を呼ぶ声が聞こえた。一瞬喧嘩してるのかと思ったけれども、機材の向こうに対面する背の高いスーツ姿が見えた。
晃一くんは、いつもの優しげな王子様顔でなく、凄んだ真剣な顔だった。
(怒ってる??)
その顔が綺麗で思わず見とれてしまったのは事実。
「まるで他人事、惚れてる女のことを語ってるようにも見えない。あんた何様だ?惚れてもいない女を婚約者だと言い張るだけの利益があんたにあるってわけか?あー、気に入らないね。」
いつもと違う標準語が余計に凄みがあった。
目も据わってる。彼は滅多なことでは怒らないけれども、舞台の演出で譲れないときも、こうやって真っ直ぐ相手を見据えて標準語で議論するんだ。
けれどもスーツの男が対面してるのは剛史くんの方らしく、激しく言い争う二人。思わず剛史くんの身体が動いてスーツの男に殴りかかろうとしたとき、
「あかん、コイツの狙いはおまえに暴力振るわすことかもしれん。今はこらえろや...」
晃一くんの声がまた低く響いて、剛史くんは思い留まり、その腕をゆっくりと降ろした。
そのあとその男が立ち去った後も、真剣な二人の表情は変わらず、何かを言い含める晃一くんに、剛史くんは不安げな表情を残しながら素直に頷いてた。
立ち去る剛史くんに、思わず身体を物陰に隠したつもりが...
「聞いていてたんやろ?出ておいで。」
王子はあたしの存在に気がついていたらしかった。
「ごめん、ちょっと挨拶に来ただけねんけど...」
「ナツキ、さんか...まあ、あんたでよかったかもやな。今聞いた話は他言無用、それはわかってる?」
真央と何度も出てきた女の名前は間違いなく剛史くんのカノジョの名前で、それに伴うトラブルがあのスーツの男だと推測は出来た。
「い、いわんよ、人のスキャンダルで話題作っても寝覚めが悪いやん。いくらうちがお笑いでも、真剣に悩んでる人を笑いモンにはできひん。」
「さすがナツキさん。悪いけど、情けかけたってや。けど、このこと事務所にもどこにもナイショや。漏らしたら...」
ちょっとだけ目が怖くなる。
め、珍しいな...王子のこんな表情。
「使てもらわれへんようになるんやろ?わかってるって、あたしらお笑いは露出度が人気のバロメーターやから、そんな自分とこの事務所敵に回すようなことはせんよ。今は充分美味しい思いさせてもろとるしね。」
「そう言う意味じゃなかったんやけどな。まあ、ええわ。ナツキは物わかりいいな。そしたら口止めに今から食事でもいかへんか?」
食事??王子と?まさか、1対1?って、急に呼び捨てになってますけど??
「二人やったらさすがにマズイかな。ああ、突撃隊の雨村さんと大木さん呼ぶけど、ええ?」
ああ、素敵な笑顔付ですか??そんな笑顔で誘われたら断れません。
王子が口にした二人は中堅どころのお笑い系のコンビで、うちの事務所の先輩でもある。あたしも彼らとは仲がいいっていうか、可愛がってもらってる。
少年っぽい見かけが色気無くて受けてるのか、お笑い系のにいさん達にもよく構ってもらってる方だと思う。あと、なぜか、オカマ系芸人にもモテます。意味ないけどね。
「にいさんらきはるんやったら、行こうかな...」
やっぱり、王子様の誘惑には勝てなかった。



あかん、酔うた...
珍しかった、自分が酔うなんて。
「おい、なっちゃん、大丈夫かいな?」
雨村さんの低い声。あたしが甥っ子に似てると言ってよく面倒見てくれるんだよね。時々子供扱いだけど...20代半ばの女捕まえて子供扱いはないだろうって思うんだけど。
「ん、らいじょうぶ、ちょっと、頭がうごかんらけ...」
だめだ、頭ふらふら。
にいさんらが居てると思ってちょっと油断したかな?それでもあたしの頭の中身は<王子とお食事>で緊張してたんだけど、どう見ても周りからは男4人の集団に見えてるだけかも。
「おまい、あしたの仕事は?」
おかっぱ頭の大木さんがあたしを揺すぶってるけど、うう、目があかない。
「夜から、収録はいっとるだけ...」
「そっか、オレら朝一大阪行きなんやわ。」
もしかして、王子にいさん達に無理させたの?
「ここからやったら、オレんとこよりナツキのトコの方が近いからなぁ。そうやなかったらうち泊めてやるのに。」
うん、飲んだ次の日は雨村さんの奥さんのおみそ汁が飲みたいです。
「しゃあない、一人で帰れるか?部屋まで送ったられんからタクシー拾ってやるから。」
「うん、わかった...」
「あ、オレ同じ方面やから送っていきますわ。明日、昼からやし。ナツキさん、ひどく酔うてるから部屋まで送っていかな、路上や部屋の前で寝てたりするんと違います?」
あわわ、王子見てたんですか?何で知ってるんです??
「そうなんや、コイツどこでも寝込む癖あるからなぁ。送ってくれるんやったら助かるわ。けど晃一、大丈夫なんか?いくらお笑いでもナツキは女やで?週刊誌とか...」
雨村さん、その言い方はないでしょう?
「あはは、大丈夫ですよ。」
そりゃそうだ。相手があたしだもん。
「けど、コイツ芸風ほどスレてないし遊んでないんわかるやろ?オレらも可愛い後輩泣かしたないねん。」
それは大木さんの声だった。あちゃ...経験無いのバレてる?まさかね〜
「わかってますよ。」
王子様らしい返事が聞こえた。以上頭の上で聞こえた会話、あたしは目を瞑ったまま聞こえてくる会話に突っ込みを入れ続けてきたけれどもそろそろ意識が危ない。これっていつもの寝ちゃって記憶失う前の兆候。
「ほな、車まで連れてく行くわ。酔っぱらいは重いし、そんなとこフォーカスされたら洒落にならんからな。」
あたしは兄さんらに肩で抱えられて、車に引きずられていってるらしい。身体がゆうこと効かないんで重いだろうなぁ...
どさっと車の後部座席に放り込まれた模様。あ〜ふかふか、キモチイイ。タクシーのカバーって嫌いなんだよね。あれ?じゃあこれって誰の車?王子もしっかり飲んでたような気もするけど...
うう、まあどうでもいいわ。はやくベッドで休みたい。
あたしは、そのままシートにほおずりして、意識を落とした。

そのままずーっと寝ていたい気分だったけど、車が止まる気配と同時に王子の甘い声に起こされた。
「着いたよ、ナツキさん。部屋はどこ?」
「ん...5Fの511...」
担がれてるような感じ。ゆらゆらゆらゆら。お姫様だっこじゃないんだね。だってあたしは王子様のお姫様じゃないから。
なーんだ残念。
背負われてるらしくって、あたしはそれでも身体に力が入らない。
「鍵は?」
「えっとぉ...」
あたしは鍵を探そうとカバンをひっくり返した。ドアが開けられ、部屋の中に押し込まれたとこまでは覚えてる。そして、倒れ込んだ先で、懐かしい我が家の玄関マットに頬を擦りつけたのも覚えてる。覚えてるんだけれども...そこから先の記憶がなかった。



「ん?」
目が覚めて身体を起こすと強烈に頭が痛かった。
狭いけど間違いなくココはあたしの部屋であたしのベッドのはず。だけど目の前に布団以外の物体が...
「こ、こ、こ、こ、こうっ!!(晃一くん??)」
なんで王子が目の前に?
なんでおんなじ布団に??
あたしは夢見ているんだ、きっと!
「ん、おはよう。ナツキ、なに口ぱくぱくさせてるねん?」
ナツキ?昨日まではナツキさんって言ってなかった?
「な、な、な、な、なっ!」
「なんでココにいるのかって?昨日ナツキがオレを泊めたんやで?送ってきて部屋まで連れてきたけどオレも眠くなったから、コーヒー飲ましてっていうたら、ソコにあるから自分で入れゆうて、そのあとぐーすか寝ちゃったじゃないか。」
「けど、なんでべ、べ、べッドに...」
ようやく単語が出てくるようになった。
「帰るん面倒になったから、泊まってええかって聞いたら、おまえ『ええで』ってゆうたんやで?それで『寒いやん、寝るとこは?』ゆうたら、『しゃあないな』ゆうて布団めくったんおまえやぞ?」
こんどは<おまえ>ですか?
「け、けど...あの、そ、そ、その恰好...」
どう見てもパンツ一丁。上半身裸。そういうあたしもキャミソール一枚にショーツだけ??
ああ、眩しいです王子っ!その裸体は美しすぎます〜〜〜
あたしは、まあ、洗濯板だから、いいとして...たぶん何もなかっただろうし。以前お笑いナカマの男と雑魚寝したときも何もなかったし...迫られたことも触られたこともない。あ、「ない(胸)」って確認されたことはある。まあ、お笑いではよくあるボディタッチだけど。
「ああ、オレ服来たまま寝れんねん。おまえもそうみたいやな。けど、ナツキ...」
急に、また、あの王子様目線でその顔が近づいてくる。
「おまえ、胸無いなぁ...男同士で寝てるみたいやったぞ?」
「はあ?」
無いって...見ただけですよね?
「触っても全然膨らみがないのは楽しないなぁ。ちょっとはあったけどな。けど、抱き心地のええ肌してるなぁ。気持ちよかったで。」
ちょっとは...あった? 気持ち...よかった?
「あのう...まさか?」
「ごちそうさん、おいしかったで。」
ニッコリと悪魔の微笑み!いや、王子の微笑み!!


あたしは思わず目の前が真っ暗になって倒れそうになった。

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素材:CoCo*