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My Prince Your Princess 〜普段着の王子様〜

それっきりだった。


挨拶はするけど声もかけて来ないし、楽屋でも避けられてるようだった。
...やっぱり遊ばれたのかな?

あの後、抱きしめただけで、王子くんは一眠りすると帰っていった。最後まで抱かなかったのは、あたしじゃ出来なかったんだ。まあ、こんな体型だし、コレで興奮できたらすごいよね。おもしろかったんだろうなぁ...あれだけモテるはずのアイドルさんだもん。女はよりどりみどりで珍しいのに手を出したけど、やっぱこの身体じゃ無理とか、なんとか。
おもしろがっただけだから、散々煽っておいて平気だったんだ、きっと。

舞台がはじまって、1ヶ月間、みっちりとスケジュールが組んであるし、座長である彼は大忙しだし、テレビの仕事もあるわけだから、大変そうだった。あたしも初めての自分所の劇団以外での客演(になるんだよね)で緊張すること他にない。絡みのシーンはほとんど無いからよかったんだけど、だけど...

あの、次の日の練習であたしは舞台監督に無茶苦茶怒られてしまった。
「あほか!そんなに色っぽい声だしてどうするんだ!!」
「え?色っぽいですか??」
「おまえの声はハスキーだからな。変に掠れたら色っぽすぎて笑えないだろ?どうした、風邪でも引いたのか?」
まさか散々喘がされたからだとは言えない。最も最後までやってないから何もなかったと言えばなかった事になるけれども。
「いえ、あのもう一度やります。」
舞台稽古なので客席を見ると休憩に入ったはずの王子がこっちを見ていた。
「今度は前のようにな、たのんだぞ!」
演出家の蛭川さんの声にあたしは昔と同じトーンで台詞を繰り出す。精一杯の演技、だ。今まで意識してやったこともなかった。自分の芸がこんなにもあっけなく変わってしまうなどとは思えない。
昔のあたし。
快感も、セックスの意味も、知ってるようで知らなかった男のようなあたしにしばし戻る。
「よし、OKだ。森沢、おまえは永久に色気禁止だからな!」
「なんですか?それ...」
「あはは、なっちゃんに色気なんてあったかぁ?」
父王役の大御所竹井猶治さんがふざけてくれて助かった。最初に『あぁん』と声を出した瞬間に、びくっと振り向いたのはこの人だったけど。
色気、出ちゃってるのか?あたし...
あんなにも欲しくっても出なかったのに、いらないときに出てどうする??
「じゃあ、この舞台終わったら僕トコに来なさい。お色気を教えてあげよう。」
ニヤニヤと竹井さん。いやらしさがにじみ出る今回の役所はすごくはまってる。実力派で、勿論尊敬してるし、うちの劇団長とも仲がいい。
「じゃあ、その時はお願いします!」
ふざけて返事返すと蛭川さんに再び『永久禁止つったろう?』と突っ込まれた。
怖い怖い、あたしがあたしじゃなくなったら、今の役どころか、今後もこの世界で使って貰えなくなる。あたしの売りの<お色気のなさ>や<少年っぽさ>がなくなったら一大事だ。
スタッフと笑い合うあたしの視線の端に王子の顔がちらりと見えた。

不機嫌そうな、暴君の顔で...

舞台がはじまっても、食事に誘われる事もない。何度か他の女優さん達とは出かけてたみたいだけど...
あたしだって舞台以外にテレビもあるし、自分とこの劇団の練習もあるから暇じゃないっていったら暇じゃないんだよね。
「なっちゃん、この後食事でもどうだ?」
「あ、竹井さん。いいですよ〜今日はもう仕事無くて上がりですから。他はどなたがいらっしゃるんですか?」
「オイオイ、俺と二人じゃダメなのか?」
「ダメじゃないですよ、光栄ですよ〜ん。で、奢りですよね?勿論。」
「え?奢り??いいなぁ、オレも!!」
側にいたjam's kidsのメンバーがたかってくる。カワイイ顔した錦居くんは王子やあたしと同じ関西出身で王子も結構可愛がってるみたいだった。他にも綺麗な顔した木梨くんや、J&Mでも注目株が何人か...何でこんなに詳しいかって?隠れJ&Mファンだからさ。高校時代、デビューしたてのスニーカーズやGalaxyに夢中になった。スケートボーイはまだアイドルよりも漫画の方がよくって。なかなかCDデビューしないスニーカーズをこっそり応援してたわけよ。まさか、共演するようになるなんて思わなかったし、昔ファンだったなんてデビューしたてのアイドルやバラドルみたいなことは口が裂けても言えないけど。
「オマエら全員をか?いくらオレでも破産しちまうわ!成人限定だよっ、酒の出る店行くんだからな。」
お酒かぁ...あまり強くないんだよなぁ。前も王子の前で失敗したし。いつもなら先輩が面倒見てくれるんだけど、この舞台はお笑い系はあたしだけ。竹井さんは個性派俳優の部類にはいるけど、元々は舞台人だから話とかはすごく為になるから行きたいんだよね。
「成人してるのってSAMURAIの千原さんと岡村さんぐらいジャン。ちぇー」
ぶつぶつと柔らかい茶髪で長身の赤城くんがぶつぶつと文句を口にしながら去っていく。だけど千原くんも岡村くんも次の公演と掛け持ちで舞台の後また稽古がはいってるんだよね。
事務所、働かせすぎだよ??
「行くの?」
不意に後ろから声がした。
「吃驚した、急に背後にたつんやないわ。あたしがゴルゴ13やったら打たれて死んどるで?」
いきなり後ろにいた王子相手に平静を装い、前のように切り返すのにかえってこない。
あれ、今の滑った??
「竹井さん、おまえが女やから誘てるんや。男を甘くみるなって、この間オレが教えたよな?ノコノコついて行きよったら痛い目見るよ?」
耳元で囁かれて、思わず首筋がびくりとなる。こんなとこで何をする!?散々無視しておいて急に何出すんだ。
「あほっ、竹井さんはそんな人とちゃうわ。」
「まだわかってへんのか...」
あの日のこと、必死で忘れようとしてるのに...無かったことにしようとしてるのに、なんで構うかなぁ?
低い声を出してあたしを睨んだ後、くるっと振り向いて竹井さんにニッコリと微笑んだ王子が言った。
「竹井さん!オレも奢ってくださいよ〜前に美味しい天麩羅の店があるって言ってたじゃないですか?オレ、そこ行きたいです。」
「え、澤井ちゃん?そっか、そんな約束してたな。じゃあ、行こうか。瞳ちゃんもどうだい?」
「うわぁ、行きます行きます!」
あっという間にスタッフも入れて20人近い集団になってしまった。
「すみません、オレが連れて行ってって言い出したから。オレ半分だしますよ。」
王子が爽やかに申し出て竹井さんほっとしてる。なんで王子こっちに来るって言い出したんだ?他のメンバーで出掛けるっていってた癖に。自分が動けばみんな一緒になるってわかっててなのかな?
「ああ、頼むよ〜澤井ちゃん。この人数はキツイよ〜よく喰うの混じってるしね?」
ちらっとあたしのこと見て肩を組まれた。
「あ、それってあたしのことですか?大丈夫ですよ、ご飯と一緒に食べれば!」
ガッツポーズで答えてみせる。そう、お笑い劇団員はパワーが命!うちの劇団は特にみんなよく食べる。白米3杯はいけるし、その分あたしは飲まないけど...
「あれ?なっちゃん食い気だけ?お酒は?」
「だめなんですよ。強くなくて...食い気一番ですよ!」
一瞬王子の視線が緩んだ気がした。ダメなのしってるもんね。
「そっか、じゃあそのうち酔わせてやるよ。酔ったときぐらい色気ださなきゃ嫁のもらい手マジでなくなるぞ?」
それを至近距離で覗き込まれて言われたので驚いた。もしかして、王子の言ってたことってマジだった?
「その時はうちの劇団で一生面倒見てくれるそうなんですよ!前に団長がそういってくれましたから、大丈夫です!」
「そっか?団長の江波は酔うと結構色っぺーぞ?」
「ほ、ほんとですか??」
「ああ、だからおまえもさ...」
また近づいてくる??
「じゃあ、移動しましょうか。うちのマネージャーが気を利かせてタクシー呼んでくれてるそうですよ。」
会話を遮るように、王子がコチラにやってきた。にっこり爽やかな笑顔につられて、竹井さんもそれ以上口にせずにみんなと一緒に劇場を後にする。
舞台も明日は中1日休みで、あと1週間で千秋楽。
『トイレにでも行ってこい、待っててやるから...』
王子がすれ違いざまに小さな声で耳元に残した。
あたしは素直にトイレに行ってから裏出口に回ると王子だけが乗ったタクシーが待っていた。
「あれ?みんな、もういったん?」
その隣に乗り込みながらあたしは聞いた。
「ああ、竹井さん五月蝿かったけどな。『なっちゃん待つ〜』ってな。だけどな、タクシーの中も、男と隣り合わせたら危険やって教えてやる。」
「へ?」
それから着くまでは地獄、いや天国だった。
運転手さんに見えない角度で膝頭撫でられて、腰に回された手は脇腹を何度も往復して、あたしは思わず体温が急上昇した。
なんでこんな指先が、動くだけでキモチイイの?思わず出そうになる声を堪える。
『わかったか、男と二人きりになったら、もっとすごいコトされるんやからな。』
上着を掛けた下半身、ジーンズの上から敏感な部分を撫でられ、あたしは顔を上げることすら出来なかった。ちらっと見ると全然普通の顔した王子があたしのことをちらっと見て顔を歪ませた。
『んっ、くぅ...』
あたしの身体から力が抜けて行く。そうしてその身体を隣の王子の肩に預けてしまった。一瞬ビクって逃げそうになるのを見て迷惑だったんだと気がついた。あたしは急いで身体を離して反対の窓を覗こうとしたら王子の手が再び肩を引き寄せてきて、あたしの頭をくしゃって撫でた。
『くそっ、こんなつもりじゃ...』
じゃあ、どんなつもりだったのよ?と聞きたかったけれども、あたしの頭に置かれた手は優しくて、なんだか泣けそうなほど切なくなった。


無事、天麩羅屋さんに着いたら、竹井さんの横には瞳さんが張り付いていた。そう張り付くってほど、べったり。
よく見ると竹井さんの手が時々、さっきあたしに触れていた王子のように彷徨ってるのがわかった。
「アレが竹井さんの手なんだよ。ちょっと酔いが回ってくるとあれで落とされるぞ?」
あたしがそういう対象になってたっていうの?
「まさか、あたしなんか相手にせえへんって、晃一くんの気のせいや...」
「まだそんなこと言うのか?よっぽど思い知らされたいんやな?」
王子はむっとした顔を向けてくる。
ホントにもう、気回しすぎ!それに、しつこい!
構わないで欲しいのに、これ以上。タクシーの中でされたこと、あたしに男の怖さを教えるつもりだったんだろうけど、そんなの、好きな男にされたら怖いんじゃなくて気持ちよくなっちゃうのに決まってるでしょう?
だけどね、もうダメなんだよ?あたしお色気禁止って言われたし、それにね、お遊びで付き合えるほど、あたしは経験もない。さばけてもいない。だからおもしろがって教育してくれてるんだろうけれども、気持ちが無いことがわかってるだけに辛いんだよ?これ以上続けられたらあたしには耐えられない。
「無理して教育してくれなくてええから!あたしにその気になってくれる人がおるんならそれでいいんだってば!たまにはモテたいしね、そんな奇特な人、大事にせなあかんやん?」
「竹井さんは妻帯者やぞ?遊ばれたい言うんか?」
「そうじゃないけど、えり好み出来ないし...あたしの場合は、ね?」
遊んでるのは王子も一緒じゃないと心で毒突く。
「お色気禁止なんやろ?どないするねん、仕事無くなったら...森沢ナツキがお色気たっぷりになっても、おもろいこともなんにもないやろ?」
「そんなんわかってる!!せやから、舞台の間はそんな真似せえへんわ。けど、終わったら、あたしの勝手や!」
「くそっ、好きにせえっ!」

王子はいったい何を怒ってるんだろう?
本当は、お願いしたかったんだ...あたしの初めての相手。
王子だったら申し分ないし、なによりもあたしが嬉しいし。
けど、辛いもんね。前みたいなのも、その後無視されるのも...
けどね、ええ加減、女になりたいんですよ、あたしだって!!

森沢ナツキ、25歳、舞台芸人。
処女(バージン)捨てたいです...

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