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「おつかれさん!!」 「お疲れ!!」 「よかったよ〜」 「花束届いてるよ、すっごくたくさん!!」 千秋楽を迎え、最後の舞台が終わった。 J&Mの事務所の力もあるけれども、今まで培ってきた王子の、いや、澤井晃一の舞台人としての底力を見せられた気がしていた。よく通る声、キレのいい動き。ミュージカルによくある感情のこもった変化する歌声。そして圧巻、見せつけたJam's Kidsとのダンスシーン。サイドで花をそえたSAMURAI6の岡村と千原。それからベテランの脇役陣、華やかな相手役の女優。オマケであたし。 見る者を飽きさせなかったと思う。感動を呼ぶストーリー、J&Mタレントのファン達だけでなく、ミュージカル好きを唸らせていた凝った演出。押さえたアクションがそれをさらに際だたせていた。 終わったぁ... そんなに長いシーンはないし、最初かなり、中盤ちらり、後半のみしっかりという出番だったので、たっぷり舞台は見れた方だった。 そして、終わった瞬間身体に鳥肌が立った。 それほどの歓声、拍手。 再び舞台に出ていくアンコール。あたしは恐れながらも女性陣と一緒にださせてもらった。J&Mの面々の後、最後に王子の登場。 割れんばかりの歓声にホールが揺れる。彼の、自信に溢れた、晴れ晴れしい笑顔がライトに輝いて、あたしはその顔が見れたことだけでも嬉しかった。自分がうるうるしているのを必死で誤魔化すしかなくて... 一緒に仕事が出来た。たとえあの後、再び千秋楽まで一言も口をきいて貰えなかったとしても。そのことに感謝しようと思った。 途中、突撃隊のにいさん達に相談してみたけど、首をひねってるんだよね。 『まさか、あいつはそんな態度取る奴や無いぞ?おまえの気のせいと違うか?舞台最後に向けて気合いはいっとるとか...あいつ、仕事に傾きかけたらなんもかもほっぽってしまうからな。』 『でも、挨拶しても、目も向けてもらわれへんのよ?』 『わかった、ほな、ちょっと聞いといたるわ。千秋楽オレらも見に行くし、楽屋にも顔出すから、な?』 相変わらずにいさんは優しい。面倒見がいいよ、この人は。おかげで奥さんには頭が上がらないけど... 「乾杯!!」 貸し切りの店で一騒ぎ。みんな無礼講に近い。いつもは先に帰されるJam's kid'sのメンバーもジュースで弾けてる。ごちそうがあっという間に平らげられていくのは、あの育ち盛りの面々が居るからだな。 「ひゃ〜あんたらよう食べるなぁ!」 「あ、ナツキさん、これめっちゃ美味いですよ!」 そういってニッコリ笑ってくれるのは滅茶苦茶可愛い顔したJam'sでも人気の錦井くん。そろそろドラマデビューが決まりそうな勢いもわかる。ホント可愛いんだって!ぽてっとした口元がなかなか色気があるしね。 「ナツキさん、コレも、コレも!」 横からは最年少の男の子。間違いなく小学生...やたらと子供に懐かれるのはお笑い芸人の性か?けれどもこれだけ選りすぐりの可愛い男の子に囲まれたら悪い気はしない。 「ナツキさん飲み物は?オレが取ってきてあげますよ。」 ニッコリ笑うのは赤城くん。すっごく笑顔がソフト... 「え?いいよ、自分で取ってくるし...」 「オレじゃダメなんですか?」 「いや、そうじゃなくて...」 うう、ちょっと悲しそうな表情がお姉さん、キュンとしちゃいますよ?でもね、いくらなんでも青少年を使いっ走りには使えないよ。それもアイドル候補の一人だし。綺麗な女顔の赤城くんはちょっとワルっぽい鬼無くんと共に人気急上昇中だから、目立つ目立つ...さっきからいろんな人から声かかってるんだから、なにもわざわざこっちに来なくってもいいのに。 でもね、赤城くん、間違いなくタラシ候補の一人だわ。ちょっとした表情の変化で女落としちゃいそうですもん。 きっと今のあたし鼻の下伸びてるよ。ナイショだけど、Jam'sのことはファンクラブ並みに知ってるからね。新メンバーとか、誰がイチオシだとか、要するにファンなだけなんだけど。 「なっちゃん、よかったで、今日の舞台。しっかり笑いのツボ押さえとったやんか?」 「あ、にいさん!楽屋に花束ありがとうございました。」 突撃隊の雨村さんが顔をだした。大木さんは別の仕事らしい。 「オレもこの後なんもないから、ちょと顔出さしてもろたで?ついでにプロデューサーと演出家の先生に顔売ってきといた。オレらもそのうちミュージカルデビューするさかいな。」 「ええ?本気ですか、にいさん?」 「本気らしいよ?」 大木さんの後ろから現れたのは王子。向こうから話しかけてくれることなんか無かったのに、さすが、にいさん!話してくたんだと、あたしは喜んだ。 『jam'sの子供やったら平気や思てるんか?あいつらもてっぺん目指してる男やぞ。ませた奴もおるから、ちゃんと気つけとけよ。』 王子が耳元で低く告げる。 な、なんだよ!こっちは気持ちよくお友だちしてたのに...それに、もう千秋楽きたんだから、あたしの自由なはず!まあ、未成年には手は出しませんっていうか、出せませんから!! 「なあ、なっちゃん、晃一に聞いたらなんもないってさ。おまえの気のせいやったみたいやぞ?」 「そ、そうですか...」 「まあ、今日は最後までつきおうたるし、ちゃんと送ったるさかい思う存分飲んでええぞ!」 「にいさん、ほんまですか?」 それは嬉しかった。こんどは送って貰えるのだったら安心だし、いざとなったらにいさんとこにも泊めてもらえる。美味しいおみそ汁が飲めるんだよね、雨村さんとこだとさw にいさんの奥さん、実は元劇団の先輩だったりする。あたしも結構可愛がられてるんだ。 「やった!ほな、今日は飲もうっと!」 酔うと寝るか記憶失うあたしには、一人で居るときは気を張ってないととんでもないことになる。腐っても芸能人。酒でトラブルは御法度。飲むのは劇団の中での飲み会で面倒見てくれる人がいるときと、泊まれる時だけ。それか、にいさん(雨村さん、大木さん)やねえさん(劇団のトップ3)が居てはる時だけ限定。だから、今回は滅茶苦茶楽しめるって、思ってた。 あー飲んだぁ!! 気持ちよく酔っぱらってる。でも、まだ眠いとこにまではいってないな。時間が来たのでkidsのメンバー達は事務所から迎えが来て帰っていった。 「なっちゃん、ホンマに男知らんの?」 隣で囁くのは竹井さん。うう、ちょっとキモイかも??飲んでエロ視線送ってくる男、苦手だ... 「そ、そんなことないですよぉ〜この歳で、そんな、あり得ないでしょう?」 あり得るんですけど。まあ、それはおいといて。 「オレらぐらいの歳になったらさ、やたら色気たっぷりの女よりも初初しいのがそそるんだよね。」 「そ、そそられなくていいです!!でも、お色気たっぷりの花園さんや、キレイな松下さんに迫られたら拒否せえへんでしょう?」 「そんなもん、するわけないだろう?据え膳は残したことありませーん。」 さすが女好きと自称するだけはありますね、ダンナ。 「そうですか?あはは...」 あー、もう下ネタ辛い!先輩が居たらうまくフォローしてくれるんだけどなぁ。 にいさんは王子と一緒に松下さん囲んでる。花園さんは早々に帰ったけど、松下さんはなんだかその気充分ぽくって、さっきからやたら王子にボディタッチを繰り返してるみたい。 「なあ、なっちゃん、この後二人で飲みなおさないか?次の舞台に役立つ<役者の色気>ってヤツ、教えてやるからさ。」 うう、だめだ、竹井さん完全口説きモード入ってるよ??このあたしに!! でも、ちょっと平気っていうか、余裕あるって言うか... これって、王子の教育のおかげなんだろうか? 「あかんねやわー竹井さん。あたしお色気禁止って言われてるの、あれ劇団長に話したら、『じゃあ、一生禁止っ!』って言われたんですよー。あたしも芸売ってるんやから、その芸の元を無くしたらあかんでしょ?すんません!あと20年ぐらいして、売れんようになって、それでももらい手のない時お願いしに行きますから、逃げんと待っとってください。」 「20年後?そんなん、オレのが役に立たんようになっとるやろが〜そんな先のこと言わずにさ、なっちゃん?」 うげ、手が、手が膝に??やめてっ、それやだよー 「なっちゃん!そろそろ帰ろかぁ。」 「あ、にいさん!!」 あたしは思わず立ち上がる。あたしの膝から竹井さんの手がさっと引っ込められた。 「すんません、ナツキ連れて帰りますわ。ねえさん方に頼まれてきてますねん。」 「ほう、えらい箱入りやなぁ、森沢は。」 竹井さん邪魔されたのが悔しかったのか、ちょっと機嫌悪そう... 「ちゃいまんがな、コイツ酔うと暴れるから、注意報でてますんや。特に車に対して攻撃性高うなりますから、竹井さんも愛車気付けなはれ。ぼこぼこにされまっせー」 「え?そ、それは困る...」 竹井さんの車好きは有名で、愛車は外国のなんていうのか高い車らしい。よく自慢してるしね。 ちょうど立ち上がったときにその場も流れてお開きになったのであたしは雨村のにいさんとほかのスタッフと途中でお茶してから、家の前まで送られて無事帰宅した。 「おかえり。」 あたしの部屋の前に座り込んでいたのは、サングラスに帽子を目深にかぶった王子だった。 いつ着替えたのか、ボロボロのジーンズの上下はどうみても今夜の舞台の王子様じゃない。 「な、何でココにおるん?」 「おまえこそ、好きにするんとちがうんか?一人で帰って来てるやんか。」 「そ、それは好きにしてるからやん!ちゃんと竹井さん断れたし、あたしの好きにしてるやろ?」 「うん、あれ見てちょっとは安心した。オレの教育が効いてたんやな?」 「そんな、べつに...」 「それより部屋に入れてくれへん?ココ滅茶苦茶目立つんやけど?」 そうだった、まだ部屋の前。 急いで部屋の鍵を開けると、後ろからドアを押し開いて王子が身体を押し込んできた。 「もう、なんやねん。別にいれたれへんゆうてないやろ?酔い覚ましに寄ったんやったらコーヒーぐらい入れたるから押さんとって。」 「ホンマに、おまえは...」 またまた低い声。また怒らせた?あたし... 「男を気安う部屋に入れるなゆうてるやろ!男の下心に、ええ加減気付よっ!」 「え?だって晃一くん教育するっていってたけど、もう終わったんやろ?舞台終わったらもう好きにするし...あたしの貞操そないにして守ってもらわんでも、あたしなりにちゃんと乗り越えていけるように頑張るから。」 「せやからっ!なんでそうなる?おまえ、今自分がおかれてる立場わかってへんやろ?また前みたいにされるんやぞ?今度は、もう途中でやめへん。だれがおまえの貞操守るか!竹井や他の奴からは守ってやるけど、オレは別やからな。」 「な、なんで、別?」 もう、充分男の怖さわかったし、あたしにその気になる奇特な人(竹井さんぐらいだけど)もおるってわかったから、これからは勿論気を付けるのに...でも、前みたいにされるのはちょっと辛い。いくら身体がその気になっても、王子はその気になってくれへんもん。 王子がぐいって身体を寄せてくる。 あ、やば...それは、今のあたしにはキツイ。 抱きしめられて、その温もり全てを身体で感じて、あたしは逃げられなくなる。 居心地いい腕の中。でもこれは、本気じゃないから。 だから辛い。あかんのや... 気がつくと、あたしはぼろぼろと涙を流して、王子の目の前でしゃくり上げて泣いていた。 |
素材:CoCo*