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My Prince Your Princess 〜普段着の王子様〜


「何で泣くのや...」
王子の語気が柔らかくなった。心配げにあたしを覗き込んでくる。
「もう、あんなんいやや...」
「あんなん?」
「教育いうヤツ?あたしの、身体に触ったり、キスしたりして...あたしがワタワタしてるん見るんが晃一くんは楽しいかも知れんけど、あたしはもういやや。辛いんや...」
あたしにかけられていた手が離れていった。
「そんなにイヤやったんか?オレに触られるんも、されるんも。」
あたしは頷いた。
「くそっ、やっぱり最初の時に無理矢理でもやっとくべきやったか...」
やっとくってなにを??最後までする気やったん??
「おまえ女になること無茶苦茶戸惑うてたやろ?パニックおこしかけてたし。それに、初めてやったら痛いやろうから、次の日稽古やったら辛いやろから、もっとゆっくり慣らしていこうって。せやのに蛭川さんが色気禁止ってゆうから、舞台終わるまで手だされへんかったんや。顔あわせるだけで何か言いそうになるし、楽屋で二人っきりにでもなったらヤバイくらいにな。それほど、あんときのおまえ可愛かったんやぞ?オレだけのもんにしたかった...せやのに竹井さんが粉かけてくるしでオレ焦って、そんなオレの気もしらんと、おまえ雨村さんに相談したやろ?『嫌われた』とかゆうて。」
「そ、そやかて怒ってる思たし、そんなん舞台一緒にやってる人に相談出来ひんやん?」
「雨村さん、すっかり気いついとったわ。ちゃんと話せえって、オレが怒られた。せやから雨村さんがおまえをお茶に連れて行っとる間に連絡もろて待ち伏せしにこれたんや。」
「え?にいさん知ってはるのん?」
今この部屋に王子が来てることとか?もしかしてあったこととか??うわぁ、恥ずかしい!!
「泣かしたら、顔殴るって言われた。」
にいさん、それは全部報告がいくってこと?わーどうしよう??
「で、やっぱりイヤなんか?オレのもんになるの。」
「...うん。」
だってどう考えても無理無理無理!
こっちが好きな分しんどいもん。バージンは捨てたいけど、そうなってしまって自分が自分らしくなくなるのも、それが原因で芸人森沢ナツキが消えるのも怖い...
なにより王子は教育のつもりだろうし、気持ちが無いのが一番辛い。いくら物珍しいからって、からかうのが楽しくても、だ。
もし借りにこの関係が続いたとしても、アイドルや芸能人同志の恋愛がいかに難しいかなんて、この世界に入ってたくさん見てきた。それでも乗り越えられるのは互いの気持ちが強く結ばれている時だけだ。
「なあ、今日を逃したら、オレら一緒に仕事することなんかあんまり無いぞ?それでも、ええのんか?」
寂しいけど、あたしにはどうしようもない。
「寂しなるけど、しゃあないもん。おんなんじ芸能界でも、ちょっと世界違うし。また機会があったら一緒に仕事しましょ。」
にっこり笑って平静を装ったのに...愛想よく笑ったのに、なんでそんな怖い顔するん?

「ナツキ、やっぱおまえわかってないやろ!」
犯してやるって今言わなかった?聞き間違い?空耳?ひえーー?王子らしくない発言だよ...でも、なんでそうなるの??
「やだ、やだ...」
あたしは部屋を逃げ回った。外から聞いたら何やと思う。
「嫌がるな、頼むから...」
「頼まれても、いやや〜無理矢理なんかイヤや!初めてやのに、痛いのイヤや!」
「ナツキ、待てって!」
「イヤや!あたしの身体のどこがええねん!こんな、洗濯板...そないに無理矢理せんだって他におるやろ?あたしはホンマに好きな人にはちゃんと普通に愛して欲しいんやもん!なんぼお笑い芸人でも、女やねんから...」
あたしはとうとう我慢出来きれずに泣きわめいていた。こんな泣き方子供やとわかってる。女優では絶対にしない、目を擦りあげながら、嗚咽し続けるあたしの前に王子が座った。
「どないゆうたらわかって貰えるねん...オレは、ナツキが好きやから抱きたいに決まっとるやろ?おまえかてどう見たってオレのこと好きろ?せやのに抱こうとしたら逃げるし、こうなったら無理矢理にでも抱いてしもたらおまえも自覚するかなって思ったんや。普通にしたいのはこっちや!ほんまに、オレにとったらナツキは女やし、抱きたい対象や。他の男が手出すなんかゆうたら気が狂いそうやわ。おまえを泣かすんも喜ばすんも喘がすんも、みなオレがやりたいんや。こんなに女に執着したんは初めてやし、おまえの芸風考えても、それでも欲しい思たんや。どないしたらわかるんや?」
あたしは完全パニック。
えっと、もしかして...もしかせんでも、王子はあたしを??
嘘...絶対嘘や!
あたしみたいな半端なお笑い芸人相手にしたかてなんのメリットも無い。
でも...目の前の王子は、真剣な目であたしを見てくれている。
「こ、晃一くん、あたしのこと女に見えるん?」
「ああ、見える。オレにとったら極上の女や。全然汚れてへんゆうか、誰の手にも染まってない。まあ、女女したヤツは元々苦手やけどな。洗濯板の胸しかないおまえに欲情してる。キスしたいし、今すぐオレのモンにしたい!」
「えっと、それは、女に見えないから好きとか...」
ココの事務所には噂が多くある。男同士の恋愛のウワサ。まさか晃一くんも?だからあたしみたいな男みたいなのがいいのか?
「あほか!おまえとおったら楽しいんや。気使わんでええし、かっこつけんでもええ。けど、おまえしっかりしとるようでボケボケやし、男知らんから隙だらけやし、オレがついとらんかったらあぶなっかしくてしょうがない。他の男が手出す前にオレのモンにしたくて、焦ったんは謝る。その後も悩んだんや。おまえが女になってしもたら、この世界で生きていけんようになったらどないしよう、オレのせいになるかって考えたりもした。その時はちゃんと責任取るつもりや。せやから早うオレのモンになって欲しい。これ以上逃げられんのも、拒まれるんも、オレもキツイ。」
あたしはすっかり泣きやんでキレイな王子の顔をじーっと見ていた。
この、いま目の前で真剣な顔してるこのアイドルが、王子があたしを好き?
そりゃ、あたしだって...
この顔だけが好きなんじゃない。舞台人澤井晃一として尊敬もしてる。見かけと中身のギャップが大きくて、優しい見かけの割に、上昇志向強いし、その分仕事比重大きくて私生活には力が入ってない。普段着だって着古したジャージが主だったりする。
ちょっと考え方が強引で、そのくせ人のことよくみてて、話もちゃんと聞いてくれる。
何より、一緒にいて安心出来るって言うか、無理しなくていいっていうか...それはたぶん同県人だからだと思っていた。
けれども違ったんだ。
あたしは、王子といると、ドキドキもするけれども、ちゃんと本当のあたしらしく、素直に女の子になれちゃうんだ。
これは、たぶん王子の前だけだ。優しいと思ってたのは、王子の雰囲気や気持ちだけじゃなくて、あたし自身の気持ちも優しくなれるんだ。
「で、ナツキは?オレの事、どないおもてるんや?ちゃんときかしてえな。」
ぐいっと顔が近づけられる。
それでも否定してきたのは、考えられなかったから。王子があたしを思ってくれるはずがないって。
「えっと、あの...」
近すぎて、やばい!ドキドキしてきた...
さっきあたしのことを好きだっていったよね?あたしのこと、欲しいって...あもう!あたし見てる目がマジでキレイっていうか、吸い込まれそう...ダメだぁ、逆上せるぅ!
「ナツキ、ゆうてくれへんのん?その顔見たら答えはわかるけど、おまえの口から聞きたいねん。」
くらくらしてるあたしの両側に、いつの間にか王子の長い足のが立てられて挟まれてる恰好。いつでも抱きしめられるほどすぐ近くにそのからだがあって、目線だけ外さずにあたしを見てる。
「なあ、ゆうて?」
もう一度即される。
「す、好き...晃一くんが、好きや!」
あたしは自ら王子の胸に飛び込んで抱きついた。
「オレも、ナツキが好きや、無茶苦茶好きや。」
抱きしめられた腕の強さに酔いながら、あたしは王子の背中に手を回した。
ああ、ほんまにこれが現実?夢やったら冷めないで。

冷めないで...

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